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内藤哲也の「正論」の虚実皮膜

 IWGPインターコンチネンタル王者である内藤哲也は、“春の最強戦士決定トーナメント”とされるニュージャパンカップに出場すると宣言していたが、出場は認められなかった。

 同じくNEVER無差別級王者の後藤洋央紀も、出場を希望しながら認められなかった。


 なぜかというと、「ニュージャパンカップの優勝者は、IWGPヘビー級、IWGPインターコンチネンタル、NEVER無差別級の3王座の一つを選んで挑戦できる」というシステムによるものとされている。

 これについて内藤は、

「ニュージャパンカップって、やっぱり最強“挑戦者”決定トーナメントじゃないか」(=予選じゃないか)

「タイガーマスクWと試合したいという(IWGPヘビー級王者)オカダ・カズチカの希望は簡単に叶うのに、同じ王者である自分と後藤の希望は叶わない。三つの王座が同じ価値だなんて前提の「3王座選択挑戦制」はウソじゃないか」


 と言っている。


 またしても内藤の「正論」であって、こういうところにプロレスファンは支持を寄せる。

 しかし同時にプロレスファンの性(さが)として思うことは――


 「これもまた、新日本という会社のシナリオじゃないか」あるいは「新日本と内藤の“共犯”じゃないか」という勘ぐりである。

 先日の真壁刀義20周年大会で、真壁は「オレにしかできないことをやるため」ニュージャパンカップへ出場しないと宣言した。

 もちろん新日本は、ニュージャパンカップを盛り上げたい。

 そして一般的には、(チャンピオンだろうが何だろうが)内藤も後藤も真壁も参戦してもらった方が盛り上がると考えるべきである。

 しかも内藤はあれだけ堂々と参戦したいと言っていたのだから、認めれば良かったんじゃないのと思いたくなる。
 
 なのにそうしなかったのは、何かの“溜め”を作ってストーリーを展開していくつもりではないかと、ファンは感じるものである。

 いったい内藤哲也は本当に新日本を批判しているのか、そういう役回りなのか、互いが互いを利用しているのか――

 新日本は、一選手の自らに対する(本物の)批判に“乗っかり”、それを増幅させようと意図しているのか――

 内藤と新日本の間には「こういうやり方で行こう」と話し合いができているのか――



 これはまさに、最近のプロレス界における“虚実皮膜”のもっとも顕著な例である。

 その真相はともかく結果としては、内藤と新日本は今のところ共存共栄を遂げる形になっている。

 まったくプロレス界というのは、“勘ぐる楽しさ”というべきものをふんだんに湛えている場所だ。

 これほど世の中の“参考になる”世界というのは、他にないのではないかと思えるほどである。


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諏訪魔は電流爆破をやるだろう論-難題に挑む全日本の象徴

 2月17日の全日本・後楽園ホール大会に来場した大仁田厚は、電流爆破戦を拒否する諏訪魔を「チキン諏訪魔」呼ばわりした。

 そして2月19日のアイメッセ山梨大会では、諏訪魔、秋山準、ケンドー・カシン、井上雅央の全日本軍と、大仁田厚、保坂秀樹、雷神矢口、パンディータの邪道軍がタッグマッチで対戦。

 諏訪魔は大仁田の赤い毒霧と有刺鉄線バットを喰らいながらも、バックドロップで保坂を沈めて勝利した。

 その試合後も大仁田は「3月12日後楽園ホール大会にも挨拶に行く。しつこいと言われようが諦めない」と、またも電流爆破戦を要求。

 しかし諏訪魔はまた拒否すると思いきや、どうも怒りのゆえをもって電流爆破戦参加に含みを持たせた反応をした――

 と、東スポwebが伝えている。



 ここ最近、諏訪魔が何度も電流爆破戦を断固拒否してきたのは、プロレスファンのよく知るところだ。

 しかしまたプロレスファンは、「ああ、これは諏訪魔は電流爆破をやる気なのだ」と思ってもいただろう。


 これは哀しいことと言っていいかもしれないが――

 プロレスラーが「断固拒否」を何度も繰り返して言うことは、多くの場合「受容する」とのフラグが立ったということである。

 そしてやはり、諏訪魔は電流爆破に参戦するのだろう。

 しかし、あの船木誠勝が電流爆破戦を行うことが日常的になり、爆破王にまでなってしまった現状から見れば、諏訪魔が電流爆破に臨んだとてさほどインパクトがあるわけではない。

 大仁田の還暦を目前にしての活動ぶりは確かに感服に値するが、しかしプロレス界を震駭させるようなインパクトを求めるなら、もう棚橋弘至やオカダ・カズチカを電流爆破に引き込むしかないと思える。

 それはともかく諏訪魔にとって大仁田との電流爆破戦は、あの藤田和之との対決に次ぐ二度目の正念場である。

 天龍引退興業で行われた諏訪魔・藤田のタッグマッチは、つまるところ大日本プロレスの関本大介・岡林裕二に名をなさしめて終わった。

 諏訪魔はここで、大きなミソを付けることになってしまった。



(⇒ 2015年9月26日記事:諏訪魔vs藤田、天龍引退試合で実現)

(⇒ 2015年11月15日記事:藤田vs諏訪魔は大日本の勝利――闘魂と王道の敗北)

 正直私は、諏訪魔の電流爆破戦がそれほど大きなインパクトを残すことはないだろうと思っている。

 それは諏訪魔の力量がウンヌンと言うより、やっぱり最近ちょっと電流爆破はやり過ぎだと思うからである。

 
 諏訪魔ももう40歳――説得力を持って全日本最強の地位に君臨できる期間は、そんなに長くなくなっている。

 オカダが「老いた天龍との引退試合」という難題をクリアした(と、私は思う)ように――

 諏訪魔は「日常茶飯事になった電流爆破で何を見せるか」という難題をクリアできるだろうか?

 それは相当難しい、と私は思うのだが……


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新日本「新しいプロレスの教科書」、世志琥MMA初陣勝利

 新日本2.11大阪エディオンアリーナ大会を、新日本プロレスワールドで見た。

 セミファイナルの高橋ヒロムvsドラゴン・リー(IWGPジュニアヘビー級選手権試合)、メインイベントの内藤哲也vsマイケル・エルガン(IWGPインターコンチネンタル選手権試合)とも、まことに凄まじい熱戦だった。会場にいた人はさぞ盛り上がったろう。

 この2試合を見て思いついた言葉は、「被弾プロレス」というものだった。

 この試合の4人、とにかくメチャクチャに相手の技を受けまくる。

(特に内藤哲也など、よくあんな攻撃を受け続けて体が動くものだ。それでもリング上のマイクアピールをほぼ平然と行い、バックステージでも熱弁を振るっていた。)

 しかし考えてみれば(いや、そんなに考えなくても)、もともとプロレスとは被弾プロレスのことである。プロレスは被弾してナンボのものである。

 内藤はエルガンの負傷箇所(自分が眼窩底骨折させた左目)とヒザをこれでもかと攻撃し、


●相手の弱点を狙うこと。

●巨漢退治に当たっては脚攻めすること。


 という、プロレスの定石・セオリーとして人口に膾炙することを観客によくわかるよう披露して見せた。


 一方のエルガンは内藤のトペを受け止めて持ち上げ、花道でブレーンバスターを決めるなど――

 「プロレスラーは尋常でない力の持ち主」という古来から続くプロレスの核心的な魅力を、これまた観客によくわかるよう披露して見せた。

 この2試合はもう、現代プロレスの手本のような試合――「新しいプロレスの教科書」と言っていい試合なのではないかと思う。

 そしてやはり、日本が世界に提供できる最高レベルのプロレスとは、「四天王プロレス」に収斂されるのではないかと思ってしまう。


(⇒ 2017年1月4日記事:新日本2017.1.4東京ドーム オカダとケニーの四天王プロレス?)



 さて同日の2月11日、韓国では総合格闘技イベント「ROAD FC 036」では、あの世志琥がMMAデビュー戦でTKO勝利を飾っている。

 この大会、abemaTVで生中継があったのだが、所用があって見逃してしまった。

(有料プレミアムコースに加入すれば放送終了後の番組も後で見れるのだが、これ以上そういう加入を増やす気になれない……)


 しかしイーファイトの記事を見ると、けっこう激しい打ち合いを制してバックマウントからパウンド連打でTKOに至ったとのこと。

 しかもその途中には、「ケージ(金網)に押し込んだ相手の髪の毛をつかんでパンチする」という反則を犯して減点を取られている。

 審判(韓国人)の注意を受けてもセコンドに「何言ってるか分からねえよ」と吠え、対戦相手はサミング(目潰し)をアピールしてドクターチェックを受けたらしい。

 いやもう、見事なほど「悪役プロレスラー」の面目躍如である。

 もしこれを「最初からそうしようと思って意図的に」やったのだとすれば(さすがにそんなことはないと思うが……)、世志琥は天才的ヒールレスラーと言っても過言ではあるまい。


(こんなことを思うプロレスファンがいるから、プロレスを嫌うMMAファンが多いのだろうという自覚はあるが。)


 もちろん対戦相手のチョン・ソンユ(韓国)は、「2年前からMMAの練習を始め、プロデビューは2016年11月(ベテラン選手に打撃で敗戦)、今回が2試合目」というグリーンガール。

 体重も、世志琥77.85kgに対し67.6kg。

(だから「無差別級」ワンマッチだった。これ自体が「階級別の、まっとうな」MMA試合とは見なされにくい。) 

 よって、MMA初心者の世志琥にはほぼ釣り合う相手だったのだろうし、勝ったからといってたいした手柄ではないと言えばそうである。


 しかし、いささかこじつけめいた感想だが――

 同じ日に(それも日本の建国記念日に)、男子は純プロレスでプロレスを、女子はMMAでプロレスを、見せつけたような気がしないでもない。


 新日本の最近の主要大会セミ・メインのレベルの高さ、しかもそれが途切れなく続いていることに感嘆しているファンは少なくないと思うが――

 昔の昭和新日本のような、本当に何が起きるかわからない(プロレスの枠を超えて本当に暴動が起きるような)トンデモなさを憶えている人には、そんな試合の連続さえも予定調和に感じられても不思議ではない。

 現代では、「そういう人は女子を見よ」ということになるのだろうか。


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JWPの突然死-これは女子版UWF分裂劇か?

 2月8日、JWPの所属全7選手が会見を開き、代表のコマンドボリショイから――

 全選手がJWPから離脱し、新団体を旗揚げするとの発表が行われた。


 JWPの名で大会を行うのは4月2日後楽園ホールでのJWP25周年大会が最後で、当面は「ドリーム女子プロレス」として興業を継続し、8月11日後楽園ホールで新団体として旗揚げ戦を行うとのこと。

 なお2月5日のラゾーナ川崎プラザソル大会では試合終了後、ボリショイがリング上から「JWPも25周年。これから30年40年とずっとJWPとしてやっていきたかったです」とマイクで述べ、JWPの終焉を匂わせていた。

 さらに遡れば今年1月8日、JWP選手らはJWP運営会社である「JWPプロデュース」から独立して「ピュアドリーム(株)」を設立。

 1月11日には新道場・亀アリーナ(東京都の亀有駅付近)のこけら落としイベントに際し、その設立発表が行われている。

 設立発表の挨拶をしたボリショイは「新会社を選手一丸となって運営していきます」と言っているので、その時から新団体設立はもう決まっていたはずだ。

 いや、デイリースポーツの記事によると、昨年11月にはすでにボリショイを代表取締役とするピュアドリーム(株)は商業登記されていたそうなので、最低でもそのあたりから決まっていたことになる。

 この新会社設立の件、私もそれに関する記事だけは読んでいたはずなのだが、心理的にはベタ記事扱いであった。

 まさかこれがJWP消滅につながる話だなどと、全く思いもしなかった。


 しかし今になって振り返れば――

 運営会社が現にあるのに、わざわざ選手代表を代表取締役とする新会社を設立するということ自体、「何でそんなことするんだ」と思うべきだったろう。

 そして、なぜそんなことをするのかといえば、もちろん独立するために決まっている。

 なお、同じくデイリースポーツの記事によると、「JWPという団体名」及び「JWP無差別級王座・タッグ王座・ジュニア王座」はJWPプロデュースに残り――

 「デイリースポーツ認定女子タッグ王座」と「POP王座」はボリショイの新団体が管理するそうである。


 
 さて今回の件、NOAHの場合とは違い、別に現団体の債務超過が原因で新団体を設立する、というわけではないようだ。 

 では何が原因かと言われれば(事情通でもない私には)見当も付かないのだが――

 ボリショイらが守りたくてたまらなかったろう「JWP」の名をJWPプロデュース側が譲り渡さなかったことを考えてみれば、運営会社(フロント陣)と選手らの間に、何か抜き差しならない対立構図があったに違いない。

 思えば中島安里紗がJWP無差別級王者でありながら(そして一度JWPを退団し出戻った身でありながら)ベルトを返上し、JWPを退団したのが昨年12月28日だった。

 もしかすると中島は、こういう「フロントvs選手」の対立に嫌気がさしたから辞めたのではないか、と勘ぐりたくもなろうものだ。


 
 そしておそらく、昔からのプロレスファンなら、本件について思い出さずにいられないことがある――

 それはもちろんあの、「第二次UWFの解散・分裂劇」である。

 1990年12月、第二次UWFの社長・神新二は、前田日明をはじめとする所属全選手を解雇するという空前絶後の処分を下した。

 これは今から見ても、「こんなことがあるのかよ」と感じざるを得ないインパクトがある。

(むろん神社長は、これ以上UWFという会社でプロレス興行をやっていく気がなくなったのに決まっている。) 



 前田ら解雇されたUWF選手らは、一丸となって新団体を設立し「Uの闘い」を持続させるはずだったが――

 それから1ヶ月も経たない1991年1月、前田日明の自宅における選手間の話し合いがこじれ、第三次UWFは発足前から空中分解。

 UWFはUWFインターナショナル(高田延彦ら)、リングス(前田1人だけ)、藤原組(藤原喜明ら)に分裂し、藤原組からはさらにパンクラス(鈴木みのる、船木誠勝)が独立する。

 現在その命脈を保っているのは、総合格闘技団体に衣替えしたパンクラスのみ。

(藤原組は藤原喜明が生きている限り存続していることになる、と言えば言えるが……)


 ただUWFと今回のJWP離脱組が違う点は、JWPの選手たちはボリショイを中心に団結し、分裂する気配がほとんど見えないところだ。

 しかし気になるのはむしろボリショイらの新団体より、全選手が抜けたJWP(プロデュース)の方である。

 「JWPという団体名」と「JWP無差別級王座・タッグ王座・ジュニア王座」のベルトがJWPプロデュースに残るのなら――

 当然ながらJWPプロデュースは、選手さえ揃えればJWPという名でJWPのプロレスを再興(継続)することができる。

 しかしこの場合、そのJWPとボリショイらの新団体のどちらを「新生JWP」と呼ぶべきか、非常にファンを迷わせることになるだろう。


 果たしてJWPプロデュースはプロレス事業から撤退するのか、それとも新選手を集めてプロレス事業を続けるのか?

 後者の場合、またしても女子新団体が一つ増えることになる。


 もういい加減、女子団体は増えすぎだと誰もが思っているはずだが……

 あの女子プロレス対抗戦時代の華であった老舗団体「JWP」の名は、完全に消えるのだろうか。

 それとも所属選手が完全に入れ替わるという、正真正銘の「新生JWP」として、思いもよらぬ選手が入団することになるのか――

 なんだか女子プロレス界、今年は急にざわめきだしたようである。

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旧ノア破産、田上明はどうなるのか?

 帝国データバンクによると、旧(株)プロレスリング・ノアであった「(株)ピーアールエヌ」(代表:田上明)が、2月1日付けで東京地裁から破産手続開始決定を受けた。

(話がややこしくなるので、以下「(株)ピーアールエヌ」は「旧ノア」と表記する。

 周知のとおり、旧ノアは昨年11月にエストビー(株)にプロレス事業を事業譲渡し、エストビー(株)は11月7日付けで「ノア・グローバルエンタテインメント(株)」(会長:内田雅之)に社名変更してプロレス興行を続行している。

(以下、「ノア・グローバルエンタテインメント(株)」は「現ノア」と表記する。


 まさにこうなる(旧ノアが破産する)ことが事業譲渡の目的だったのだから、このニュースは全く驚くに当たらない。当然の既定路線である。

 なおこれを受け、旧・現ノアのトップレスラーである丸藤正道、及び現ノアの会長である内田雅之氏は、次のようにコメントしている。


***********************************************

【丸藤正道】(しらべぇ編集部の記事から転載)

 何かが始まるときは何かが終わるとき。終わると言っても全て『終わり』では無いんだ。

 人として一番大事な部分、偉大な先輩たちの『意思』は俺達は引き継いでいる。

 誰が何と言おうとそれは俺たちにしかわからないものもある。

 新たなるステージへのステップアップだと思ってほしい。

 こういう時に憶測や噂で何かを断言するのが一番良くないしかっこよくない。

 数ヵ月前にも言ったが俺たちは『前しか見てない』『やらぬ後悔よりやる後悔』まだまだ足りぬところだらけだろう。

 でも足りないってことはこれから伸びる『可能性』を秘めてるってこと。ピンチや逆境など現場やリングにいる人間が一番わかってる。

 そして今わかってることは『ノアは進化する』見ていてくれ。

 俺が好きな言葉 『難が無いのは無難な人生 難が有るのは有り難い人生』。


【内田雅之】(東スポ記事による)

 昨年11月1日付で事業を譲渡してもらって、継承しているので(現体制に)全く影響ないです。

 先人が作った意志は引き継いでいるつもり。プロレスについては今後も期待していただきたい。

 今は歩みの途中なので、目指してきた道をひたすら進んでいくだけだと思っています。

 (旧ノアで代表を務めている田上明について)

 公的に破産管財人がついて清算していくというキチッとした責任の取り方を前任の社長(田上)がなされているので、経営者として立派な対応だと思います。 


***********************************************


 さて、プロレスファンが最も気になる点は、いったい田上明はどうなってしまうのかということだろう。

 そしてもう一つ――

 NOAHというプロレス団体は超過債務を旧ノアに残し、プロレス事業を現ノアが引き継ぐ形で(負債なしで)興業を継続する選択をしたわけだが……

 こんなことがまかり通るならNOAHに対する債権者は踏んだり蹴ったりではないか、これなら世の中の会社はいくらでも延命できるではないか、という疑問も湧いてくるはずだ。

 私はむろんNOAHの内情に詳しいわけでも何でもないが、以上2点について想像できるだけ考えてみる。


 まず旧ノアという会社が破産したからといって、代表(社長)の田上明も自動的に破産したり身ぐるみ剥がされるわけではない。

 会社の破産手続はあくまで会社の財産を清算し債権者に分配するのであって、社長といえどもその個人財産を清算させられることにはならない。

 しかし社会人なら大半の人が知っているように――

 世の中小企業の社長さんのほとんどは、自分の経営する会社の債務につき、社長個人として連帯保証しているものだ。

 もちろん旧ノアは(現ノアもだが)中小企業に他ならないので、社長の田上明も自己所有の居宅と敷地、そしてもし所有しているのであればその他の所有不動産(親から相続した実家の土地建物など)も担保に入れているだろう。(具体的には、抵当権を設定している。)

 よって(連帯保証なので)会社が破産しようがしまいが、債権者は旧ノアに対する債権を直接に田上明に請求できる。払わなければ抵当権も実行できる。

 しかし、とはいえ――

 おそらく旧ノアの債務について田上明が連帯保証していたのは、銀行に対する債務のみのような気がする。

 おそらく旧ノアの末期にもなると銀行から借り入れすることはできず(旧ノアの返済能力に疑問がありまくるため)、ノンバンクあたりから無担保融資(すなわち高い利子付き)を受けていたのではないかと思われる。

 興業の売り上げを担保に借り入れていた可能性もないではないが、それについてまで田上明は連帯保証していないだろう。(あくまで推測である。)

 はたして旧ノアに銀行からの借り入れ未返済額がどれほどあるのか知るよしもないが、その金額次第では、田上明が身ぐるみ剥がされるまでには至らないかもしれない。


 
 さて次に、破産手続開始直前に「プロレス事業」を新会社に譲渡して興業を継続するというのは、許されるのかどうか。

 確かに破産管財人には、「否認権」というものがある。

 破産会社が破産直前にその財産を「不相応な安価で譲り渡す」など、債権者に分配するための財産を散逸させる行為については、破産手続開始後になって(遡って)その行為を否認する――財産を管財人に取り戻す権利がある。

 旧ノアの財産と言えば、むろんプロレス事業そのものである。(旧ノアはこれだけで収益を上げていたのだから。)

 よって、破産するのを見越してその前にプロレス事業を新会社に譲渡するというのは、モロに否認権の行使を喰らいそうだ。

(念のために言うと、破産管財人は破産会社の味方ではない。あくまで公平中立に、破産会社の財産を債権者らに分配するのが仕事である。)
 

 ただ――

 破産会社の従業員(ここではフロント組)が(破産前に)新会社に移ることについては、否認権は行使できない。(転職するのは個人の自由だから)

 ましてレスラーは従業員ではなく個人事業主なのだから、破産会社との契約を打ち切って新会社と契約するのは当然に自由である。

(そう、「所属」とか「入団」とかいうのは、選手という個人事業主がプロレス興行会社と契約したことを俗にそう言い慣わしているのだ。)


 強いて言えば、旧ノアの所有していたリング・トレーニング器具・巡業バスを現ノアに譲渡することについては、否認権が行使できるだろう。

 ただ実際には、そんなことについてまで否認権の行使はなされないと思われる。

 そこはそれ、何らかの形で話は付いていると感じられる。(もっと言えば、旧ノアの債権者の面々とも、何らかの話は付いているのかもしれない。)


 結論として、旧ノアの債務を事実上帳消しにして(旧ノアの財産なんて、ほとんど無いも同然だろう)、現ノアがそれとは無関係にプロレス事業を続けることは可能なのだ。

 世の中には、そういう「ホントにそんなことできるのか」と思いたくなるような話もあるのである。

 ただもちろん、今の新ノアの“債務者としての”信用はゼロに等しい。(リング上の試合のクオリティは、これとは全く別の話。)
 
 旧ノアにカネを貸していた人も、さすがにもう新ノアにカネを貸すことはないだろう。

 現ノアの集客力は残念ながらいまだ満足なものに至っていないようなので、あえて資金を投じてくれる人を見つけるのは非常に難しいはずだ。

 正直このままでは、また何年か後に同じような事業譲渡が繰り返されるのではないか――

 そう感じるプロレスファンも、きっと多いことだろう。


 ここでまた最初の点に戻るのだが、やはり気になるのは田上明のことである。

 私としては、さすがに田上明ひとりだけが連帯保証で身ぐるみ剥がされ無一文になる――

 などということには、周りがさせないと思っている。


 もしそんなことになろうものなら、それこそ田上火山大爆発の時だろう。

 しかし、仮に田上明が「いや、オレ一人が自己破産すればそれでいい。それでオマエらがNOAHを存続させてくれるなら……」と覚悟を決めているのだとしたら、

(経営者として当然だという意見もあろうが)冗談抜きで敬意を表すべき態度である。

(⇒ 2015年6月16日記事:レスラー短感02 田上明・NOAH社長の元気のなさは異常ではないか?)

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Appendix

プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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