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「あれもプロレス、これも民主主義」?

 6月30日付け中日新聞、及び7月1日付け毎日新聞地方版の記事を抜粋引用する。


(引用開始)****************************


○沼津市議会は6月30日、発掘調査費を盛り込んだ一般会計補正予算案を賛成多数で可決した。

○これにより市は、記録保存のための全面発掘を名目に、古墳を削り取る作業に着手できる。

○しかし栗原裕康市長は議会閉会後に報道陣に対し、「ただちに予算を執行しない」と発掘調査を一時保留することを表明。

○また、行政と学識経験者らによる協議会を新たに設置し、古墳保存と道路建設の在り方を再び検討すると述べた。

協議会のメンバーは、沼津市、静岡県、文化庁、国土交通省、学識経験者など。遅くとも9月定例市議会までに設置する。

○栗原市長は報道陣にこうも述べた。

 ・「報道まで市民の関心はほとんどなかったが、今では議論がつまびらかだ。世間から注目を浴びている。強行すると沼津市のイメージダウンになる」。

 ・「協議で道路建設と古墳保存が両立する素晴らしいアイデアが出てくるかもしれない」。


(引用終わり)****************************


 全国ニュースで報道されるまで、地元の問題に地元市民がほとんど関心を抱かない。

 全国ニュースになった途端、関心が盛り上がる。

 これは通常のパターンである。

 地元民が地元ローカルタレントを見下し、全国タレントには一目置くという通常パターンの一例でもある。


 それはともかく、設置予定の協議会というのには、なぜ住民代表(市議会議員のことではなく、純粋な市民である)が入らないのだろう。 

 本ブログ6月28日の記事でも言ったが、古墳を壊してでも道路を通せと望んでいるのは地元住民である。

 だからこそ沼津市はそうしようとしているのである。

 だったらここには賛成派・反対派、両方の立場の住民代表を入れるべきではないか?

 と言うか行政(沼津市)は場を用意するだけにして、そこで賛成派・反対派が議論を戦わせればよいのではないか?

 いや、こういうことこそ住民投票で決めればよいと思っている人も多いはずである。

(もっとも、こういう問題に地元住民だけが決定権を持つのはおかしいという意見もあろう。)



 ところで6月29日付け毎日新聞(静岡版)に、沼津支局長の石川宏 氏がコラムを書いている。

 一部だけ抜き出して真意を歪めている、と言われるのも疑われるのも嫌なので、ここは全文を引用する。


(引用開始)****************************


ふじのくに通信:揺れる「本物の宝」

 保存するのか? それとも壊すのか? 高尾山古墳の取材に追われている。

 3世紀前半に造られた沼津市の古墳。一段高い北側は正方形に近い方形で、低い南側は台形。小高い墳丘は長さ62メートルもあり、東日本で最古最大級という。

 この古墳を「大切だから残してくださいよ」と日本考古学協会が会長声明を発表したのが5月25日午前10時半。そして「道路を造るのに邪魔だから壊します」と沼津市が発表したのが同じ日の午後1時半。協会の取材に新幹線で東京へ。沼津に戻る途中、東京駅のデパ地下で弁当を買ったのが災いし、市の発表には遅れてしまった。どうも、すみません。

 門外漢なので「なぜ高尾山古墳が大切なのか」が、よく分からない。そこで静岡大学の考古学者に話を聞き、6月16日に記事にまとめた。読んでいただけたでしょうか?

 それと別に「おかしくないか」と疑問に感じたのが、市民や専門家の意見を聞かず、役所の中だけで「壊す」と決めたこと。「壊してもいいでしょうか? それとも道路を少し曲げるなどして保存しましょうか?」と、みんなに意見を聞いたうえで決めるのが“民主主義”ではなかろうか? 学校ではそう習った、と記憶している。

 心もとなかったので静岡大学の政治学者にも話を聞いた。日詰一幸教授は沼津市の行政改革推進委員長を務め、栗原裕康市長も頼りにしている、はずの人。中立的立場で話していただけたと思っている。

 沼津市は「ぬまづの宝」を大切にするという。権威ある考古学協会が“本物の宝”と太鼓判を押す高尾山古墳。「取り壊しは将来に汚点を残す可能性がある」と日詰教授は話してくれた。

【沼津支局長・石川宏】


(引用終わり)****************************


 そう、役所の中だけで壊すと決めたのはおかしい、と大半の人が感じるだろう。

 だがしかし、私がさっき述べたように「賛成派・反対派の住民が討論会をする」ということについては、

 やっぱり大半の人が「それはちょっと……」と感じると思う。

 そして新聞記者はじめメディア関係者も、「それは行政の責任回避だ」「地域に溝を作った行政の責任は重い」とか、

 いかにも書きそう・言いそう・思いそうだとあなたは思われないだろうか?


 そんなことが行われるとして、たぶん住民も「有識者」もそこへ出て行く勇気はない、と私は思う。

 それは、誰も住民という「上」の存在と対決する度胸はない、と思うからである。

(ちなみに「度胸のなさ」とは、あらゆる社会問題に関連するキーワードだとも思っている。)


 民主主義とは、人民同士が意見をぶつけ合い論戦することであるはずである。

 石川支局長の表現を借りれば、

 『それが“民主主義”ではなかろうか? どんな本にもそう書いてある、と記憶している』。

 少なくとも私は、それが民主主義の真髄であり当たり前のことだと思っているのだが、違うのだろうか?



 ところが日本では、どうもその当たり前が当たり前でないようである。

 まるで日本においては、そういうこと(人民・住民同士が論戦すること)をさせないのが行政の責務だ、とさえ思われている節がある。

 おそらくこれは、

「“上”の方々にそんなことをさせてはいけない、それが下々の務めである」

 との“配慮”あるいは“道徳”から来ているのだろう。

 だから人民自身もまた、「俺に/私にそんなことさせるなよ」と普通に思っているのだろう。


 人民は自らが主権者だと思うし主張しもするが、それでいて自ら論戦の場に立つことは拒み忌避する。

 そんなことをさせるのは下々(行政のことだ)の不始末であり無責任だとナチュラルに思う。

 これは、「お客様民主主義」の理念だと言ってよかろう。


 「あれもプロレス、これもプロレス」という言葉がある。

 デスマッチも電流爆破も、試合の途中に歌合戦が始まるのもプロレスである。

 しかし、この言葉を嫌う人/否定する人も大勢いる。

 特に「闘いのない」プロレスはプロレスではない、との意見は幅広く根強い。



 では、「あれも民主主義、これも民主主義」という言葉はどうか。

 「お客様民主主義」も「封建民主制」も民主主義のうち、と思う人はいるだろう。

 しかし、人民自身が自ら論戦するのを拒否する民主主義も、民主主義と言ってよいのかとの疑問は消えない。

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コメント

[C5]

記事に共感する部分があります。

先日の大阪都構想の住民投票の結果を、どう受け取られているのか、ご意見をお聞かせいただけましたら幸いです。
  • 2015-07-03 22:53
  • ムームー
  • URL
  • 編集

[C9] Re: タイトルなし

 まず、大阪都構想について詳しく見てきたわけではないことを言っておかなければなりませんが、感想だけでも。


(1)橋下徹 氏はナチュラルに「上手い」

 住民投票後の会見は、敗北会見なのに非常にさわやかで、すがすがしい印象でした。
 あんな敗北会見を見ることはあまりないと思います。
 そして全然種類は違うのですが、どこか世Ⅳ虎の引退と通じる部分も感じます。
 (引退を明言しているのに、復帰の可能性を強く感じさせるところが。) 

 ああいう会見ができるのは、本業は弁護士なんだから市長なんて辞めても何とでもなるという自信もあるのでしょう。
 (そういう意味で、やっぱりバックボーンは大事ですね。)

 しかしああいう態度は必ずしも戦術や作戦ではなく、やはり彼のパーソナリティ(元々の性格)と解した方がいいと思います。
 だからこそ当選もしたのでしょうし……


(2)敗北の理由

 それでも大阪都構想が小差とはいえ住民に否決されたのは、根本には

 「若い」「弁護士(というエリート職)」への庶民的・高齢者的な反感があったのかな、と思います。

 知事や市長になって役所という旧体制を懲らしめるのはいいが、住民生活に直接関わることを「若いエリート」の思いどおりにはさせたくない、という意識は、かなり強いものがあるのではないでしょうか?

 私もそうなので大きなことは言えませんが、大阪都構想の中身を本当に理解して投票した人って、そんなにいるとも思えません。


(3)ネーミングの問題

 これも私がそう思うからそう感じるのだ、と言ってしまえば終わりですが、

 首都じゃないのに大阪「都」構想、というネーミングの違和感は、けっこう最後まで尾を引いたのではないかと思います。

 適当な代案名が思いつくわけではないのですが(「特例市」なんかは既にありますし)、このネーミングがすんなり受け入れられるものであったなら、住民投票のあの小差は埋められたかもしれない、とも思っています。

(「大阪副都構想」「大阪総合市構想」というのは安易ですかね?)
  • 2015-07-04 02:24
  • 平 成敏
  • URL
  • 編集

[C10]

ていねいなご回答ありがとうございます。
出身地が大阪なので、橋本氏の知事当選から、一連の都構想の動きまで、少なからず関心を持っていました。

敗北の理由、納得出来ます。
高齢者ほど、反対票を投じた割合が多かったようですしね。

しかし、橋本氏を行政の首長に当選させた柔軟な思考の持ち主が多いはずの大阪の庶民ですら、自分の生活に直結する問題には、NO という審判を下すという保守性を示すとは、意外でした。

私も、都構想については、ちゃんと理解していたわけではありませんが、少なくとも東京一極集中に一矢報いる最初で最後のチャンスだと思っていただけに、僅差にしろ、橋本氏が敗北したことは残念です。

これほど民意の重さを感じたのは、ひょっとすると、政権交代のとき以上かも知れません。
  • 2015-07-04 18:02
  • ムームー
  • URL
  • 編集

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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