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趣味vs民主主義――高尾山古墳の破壊を巡る戦い

高尾山古墳(20150625中日新聞写真)
高尾山古墳(2015年6月25日・中日新聞より)


高尾山古墳(20150616中日新聞写真)
高尾山古墳(2015年6月16日・中日新聞より)



 静岡県沼津市の「高尾山古墳」が、道路建設のため取り壊される予定だという。

 直近の本日現在で報道されていることを、箇条書きでまとめてみよう。

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○高尾山古墳は、全長62メートルで東日本最古・最大級の前方後円墳。


○発見されたのは1978年。(ただし、正式に古墳認定されたのは2008年)

 元は神社があったが道路建設のため移転され、整地しようとするとき古墳があることがわかった。


○その築造時期は西暦230年頃、埋葬は250年頃。ちょうど卑弥呼時代に当たり、被葬者は「古代スルガの王」とも考えられる。


○建設しようとする道路は「沼津南一色線」。国道246号線と結び、国道1号線の慢性的な渋滞を解消するのを目的とする。しかしその道路がモロに古墳を横切る。


○日本考古学協会は、もちろん古墳の保存を求める声明を発表。(5月25日)


○沼津市議会の建設水道委員会において、市議会議員から「ぜひ古墳を残してほしい」との意見が出されるが、市は従来方針を崩さず。

 「議論の余地はないのか」との問いに、「そのとおりです」と答弁。(5月27日)


○古墳の保存を求める市民グループ3団体が、沼津市に陳情書を提出。(6月16日)

 ・高尾山古墳を守る市民の会(古墳近くの金岡地区の住民たち)

 ・高尾山古墳を考える会(考古学者が中心)

 ・高尾山古墳の保存を望む会(市内外の声を集める)


○しかし、古墳の地元の自治会5つは、道路の早期完成を求める要望書を沼津市長に提出。(6月2日)


○沼津市議会の一般会計予算決算委員会は、発掘調査費5,100万円を盛り込んだ一般会計補正予算案を賛成多数で可決。(6月24日)

 6月30日には本会議で可決される見通し。

 これにより、市は「記録保存のための全面発掘」を名目に、古墳の取り壊し工事に着手できる。


○川勝平太・静岡県知事は、定例会見で、道路の形状を工夫するなどして古墳を保存するよう関係者に求める。

 県は沼津市に対し、近くの市有地にレプリカを作ることなどを提案しており、市も検討中とのこと。

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 なるほど写真を見ると、見事なまでに道路のド真ん中に古墳がある。もちろん住宅地のド真ん中である。

 もし古墳の上に神社がなかったなら、とっくの昔に破壊されていただろうと思える。


 さて、この報道を聞いた人がまず思うのは、

「また無知蒙昧な土民どもが、道路建設なんて理由で貴重な歴史遺産を破壊しようとしている。全くもってけしからん、とんでもないことだ」

 ということだろう。

 そして沼津市長・沼津市役所・沼津市議会議員の連中は、(例によって)ろくでもない連中だと感じることだろう。


 しかし、なぜ沼津市(上記の人々を、こう一括して呼ぶことにする)は、こうも強硬に道路建設の方針を変えないのか。

 そもそもなぜ、道路を建設しようとするのか。

 それはもちろん、地元の要望があるからである。

 渋滞の解消を望む、住民の声を汲み取っているからである。



 それが証拠に、地元自治会は(それも5つも)、古墳を破壊してもいいから道路を建設してくれとの陳情書を市に提出している。

 古墳破壊は地元住民の声なのである。


 そして、「たかが渋滞解消なんて理由で古墳を潰すなど、とんでもないぞ」と思うのは、もちろんその人たちが地元住民でないからだろう。

 じゃあ古墳破壊に反対だとして、「あんたら地元住民の気持ちがわかるんですか、代案にカネを出すんですか」、と訊かれれば、大半の人が黙るか言葉を濁すのだろう。

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 この案件は(他のどんな案件でもそうだと言えるが)、芋づる式にいろんな問題に繋がってくる。

 ちょっと考えつくだけでも、次のように――

(1)地方自治・住民自治は、領域国家の統治権のようなものなのか?

   つまり内政干渉は不当であり、領域内の土地などをどうするかは100パーセント地元住民が決めてよいものなのか?

   たとえそれが、国の歴史に重要な位置を占める(かもしれない)ものであっても?


(2)仮に(1)が正しいとして、それなら地元住民だけが道路建設の費用を負担すべきではないか?

   もしこの道路建設に、たとえば補助金などという形で他所(よそ)の住民の税金が投入されているなら、当然よその住民にも口を出す理由と道理があるのではないか?

   とすると、地方自治なんてものはむしろあってはおかしいのではないか?

   (大半の自治体が国の補助金に依存しているのは、周知の事実である。)


(3)逆に「古墳を残せ」というのは、趣味・好みの問題なのではないか?

   そんな趣味・好みのために地元住民は不便でい続けなくてはならないのか?


****************************

 ここで最も根源的な問題は、(3)だと思う。

 日本古代史に興味のある人は数多い。(私もそうである)

 しかし、日本国民みんながみんなそうなのではない。

 日本古代史などどうでもいい人が、高尾山古墳があろうがなかろうが興味ない人が、

 そんなことより渋滞解消の方がよっぽど大事に思う人が、世の中には大勢いるのである。


(むろん沼津市民にも大勢いる。)


 いやそれは間違ってる、高尾山古墳は誰にとっても大事なのだと思う人、

 みんながそう思うべきなのだと思う人は、まさに古墳に代表される古代史・歴史が好きだからこそそう思うのだ。

 しかし別に好きじゃない人は、そんな話を聞かされても全然感慨を覚えないのである。


 それはあたかも、プロレスファンがプロレスの試合結果に関心を持ち、大事だと思うことに似ている。

 彼が関心を持ちそんな風に思うのは、当然プロレスが好きだからである。

 しかしプロレスが好きじゃない人にとって、そんなのどうでもいいのはわかりきったことだろう。



 私は個人的には、高尾山古墳を残してほしい。

 しかし実際壊されたとき、身も世もなく泣き叫んだり、魂がちぎれるほどの無念さを味わうかと言えば、そんなこともない。

 高尾山古墳の保存のために募金活動があったからと言って、それに募金するかどうかもわれながら疑わしい。

(興味があるからって、そんなに何でもかんでも募金するわけにはいかんのだ。)


 開き直って言うならば、古墳とはその築造が終わった頃からすでに無数に壊されてきた。

 現存する古墳でさえ本当に日本中どこにでもあるので、破壊・廃滅したものがどれほどあるかわからない。

 特に近畿地方においては、その大半は住宅地・畑と化してしまったのではないだろうか。

(あなたの住んでいるまさにその家・マンション・アパートが、かつて古墳だった可能性も充分にある。) 

 そして、だからといって、我々はそのことを本気で惜しみはしないのである。

 何であろうが無ければ無いで、我々は充分やってきたしこれからもやっていくだろう。



 そして、もし高尾山古墳を本当に破壊させまいとすれば、その攻撃ターゲットは沼津市でなく地元住民に絞った方がよいと思う。

 繰り返すが、沼津市が古墳を破壊しても道路を通そうとするのは、それが住民の要望であり願いだからだ。

 それなのに沼津市を非難し攻撃するのは、大きく言えば民主主義の否定である。

 たとえ地元住民が愚民だろうがなんだろうが、彼らの望みを聞くのが民主主義であろうことには疑いない。


 その望みを変化させなければ、何をしたってムダであろう。


 では、どうやって古墳破壊賛成派の住民を攻撃するのか?

 それはやっぱり、彼らに「文化破壊者」のレッテルを貼り付けることだと思う。


 民衆には、「個人名が出てこない」との利点がある。

 古墳が破壊され、それに対する非難や罵声が起こったとしても、それを浴びるのは地元住民個々人ではない。

 だから古墳破壊を推進しても怖いことはない。

 しかしそれは、個人名で攻撃された途端ビビり始めるという弱点でもある。


 個人名をネットに晒して血祭りに上げる、などということが私は嫌いだが、だったら次善の策として――


 「古墳を壊したら、沼津市民は永久に日本の恥さらしになる」とか、

 「古墳破壊に賛成する地元住民は、『ああ、あそこの住民ね…』と白い目で見よう!」



などと呼びかけるのはどうだろう。ネットに書き込みまくればどうか。

 ただしこれは、そこまでして古墳を残したいと願う場合のことである。

 おそらく古墳破壊反対派の人たちも、そこまでするのは躊躇するだろう。

 そしてたぶん、古墳は壊されてしまう。

 考古学者・古代史愛好家という、国民の中ではごく少数の人々を除き、我々は高尾山古墳のない世界をこれからも普通に生きていく。

 一つの歴史が永遠に失われてしまうかもしれないのだが、しかしそれは今まで何度も起こってきたことなのであり、今を生きる人間にそんな深刻な心的ダメージを与えることはないのである。

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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