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ザック・セイバーJr.「魂の演説」-イデオロギー闘争再び

 2月11日、新日本プロレスのエディオンアリーナ大阪大会『THE NEW BEGINNING in OSAKA』では、新日本を離れるオカダ・カズチカと新日本の社長となった棚橋弘至が、最後の一騎打ちを行った。

 その結果は、オカダの勝利。

 あのレインメーカー・ショックを知る者は誰でも、深い感慨を覚えただろう。

 だが私的には、その感慨をもずっと凌駕する出来事がこの大会では起きていた。

 セミファイナルの、ザック・セイバーJr.とブライアン・ダニエルソンのスペシャルシングルマッチ……

 それに勝利したザックが、バックステージで「魂の演説」とも言えるコメントを発したのである。

 それはまさに演説であって全てを引用したいところだが、さすがにそれはやり過ぎなのでリンク先を参照されたい。

(⇒ プロレスTODAY 2024年2月12日記事:【新日本】ザックがブライアンを撃破し宣言「 2024年オレはIWGPヘビー級王座を獲って、プロレス界を一変させてやる」)


●オレは日本のプロレスに夢中だった。プロレスに対する尊敬、敬意、技術、そして名誉をもたらすこと(を目指した)。

●プロレスはスポーツだが、エンターテインメントの要素も含まれていないといけない。しかしそれはあくまでも目的であり、実際は格闘スポーツだ。

●ブライアン・ダニエルソンは世界最大のプロレス団体(WWE)に向かった。

 オレたち(自分とブライアン)のプロレスをプロレスではないと拒否する団体だ。

●しかしブライアンはそんな団体でも成功した。彼がWWEで億万長者になっていた頃、オレはどのメジャー団体からのオファーも断り続けた。

●オレはこれからも人生の全てをこのスポーツに捧げるつもりだ。感謝も祝福も期待していない。そしてある日忽然と姿を消すだろう。

 その日まで、オレは毎日新日本プロレスにいるだろう。日々、プロレスの概念を覆すために働き続けるだろう。

●1人また1人と億万長者が増えていくたびに、オレはここ(新日本)にいる決意が強くなる。

 それは愚かなことだと思うからかもしれないし、資本主義を信じないからかもしれない。

 そしていつの日か、オレはここを平等な社会主義な組合に変えてやる。

 オレはお金に興味がない。プロレスに興味があるんだ。



 ここ数年――いや、ここ数十年か――、ここまでプロレスを「思想」として語ったプロレスラーがいただろうか。

 もしかしたらこれは、UWFの前田日明以来のことかもしれない。

 しかし前田日明より、さらに思想は鮮明である。

 特に最後の、

「1人また1人と億万長者が増えていくたびに、オレはここ(新日本)にいる決意が強くなる」

「それは資本主義を信じないからかもしれない。いつの日かオレはここ(新日本)を、平等な社会主義な組合に変えてやる」

「オレはお金に興味がない。プロレスに興味があるんだ」


 は強烈である。

 いったいぜんたい、自分は資本主義を信じない上に、自分がプロレス人生を捧げると決めた団体を、いつの日か平等で社会主義的な組合に造り替えてやる――

 なんて宣言するレスラーって、今までいただろうか。

 いやレスラーどころか、日本の言論界に「資本主義を信じないで社会主義を目指す」なんて言っている人・堂々キッパリと言える人が、はたして何人いるだろうか。

 スポーツ界において――スポーツと認めない人はさておくとして――プロレス界が特殊なところと言えば、「エンターテインメントの要素が含まれている」こともあるが、何よりも「イデオロギー闘争」がある(とされている)点である。

 大相撲にも野球にもサッカーにも、イデオロギー対決というものはない。

 テニスイデオロギーはなく、バスケットボールイデオロギーもない。

 そしてこう言っては何だが、「バレーボール哲学」というものもないのではないか。

 しかしそのプロレス界においても近年、イデオロギー闘争というのはすっかりご無沙汰の感がある。

 「自分の信じるプロレス」みたいな言い方はありはするが、確かにイデオロギー色というのはプロレス界からほとんど消えかかっていたと言っていいだろう。

 そこへこのザックの「魂の演説」である。

 これは今のプロレス界へ、ひいては大きく見れば日本社会へ、まるで爆弾を投げ込んだようなものだ。

 なにしろこれほど断固として、資本主義を否定して(信じないで)社会主義を目指す、というスタンスを明らかにしているのだから。


 さらにザックは今回のブライアン戦直前、東スポのインタビューにこうも答えている。

「考えてみてほしい。なぜファンは、米国のプロレスだけを見ようとしないのか?

 私が10代の頃に夢中になったのは、日本のプロレスがプロレスに敬意と品格を持って接していたからであり、西洋のプロレスに抱いていたような恥ずかしさではなく、プロレスファンであることを誇りに思えたからだ」。

 ザックにとって、西洋のプロレス即ちWWE式プロレスは、それを見ることに恥ずかしさを覚えるものだったようだ。

 これはかつても多くの外国人レスラーが思ってきたことのようで、彼らの大半が日本に来て感じるのは(感激するのは)、日本のプロレスファンがレスラーやプロレス自体を本当に敬意をもって見てくれるということだったらしい。

 もちろん「エンタメWWE式プロレス」に批判的な人は日本のプロレスファンにも、そして日本人レスラーにも数多いはずだが――

 しかしこうまでハッキリとエンタメプロレス化を否定し、なおかつ資本主義までも否定するレスラーというのは、今のところザックという外国人レスラーだけだろう。

 まさしくこういうことを(少なくとも何人かは)言うべきだろう当の日本人レスラーでさえ、こんなことを言う人は誰もいない。

 なんだか今回のバックステージ演説でザックは、一躍(かつてのUWF前田日明のように)現代プロレス思想界の中心人物となった気がする。

 ここにまた一人、プロレス界の台風の目が生まれたわけである……

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙 表紙:『もうすぐ無人島になる瀬戸内の島へ』 ブログ販売欄掲載用

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