徳光和夫と言えば、言わずと知れた元日本テレビのアナウンサー。
特に全日本プロレス(馬場全日本)の実況を務めたことで知られ、もちろん「プロレスの味方」と目されてきた。
それが一転、プロレスファンから猛反発を受けることになったという。
10月20日放送の地上波『ダウンタウンDX』の男性フリーアナ特集回に出演した彼は、
「自分のプロレス実況はウソばかりだった」と滔々と喋り――
テレビ朝日で新日本プロレス実況を担当していた辻よしなりのフォローをも、「それはキレイごと」と振り切って喋るのを続けたという。
(伝聞形で書いているのは、私がこの放送を見てないからである。)
(⇒ リアルライブ 2022年10月21日記事:徳光和夫、プロレス中継の禁断ウラ側暴露「実況は作り話」レスラーに失礼な言動でファンから怒りの声殺到) 徳光和夫は当然プロレスファンであり、何ならよく言われる「プロレス村の住人」であるとさえ思われてきたはずだ。
それが唐突に、この「敬意を欠いた」「プロレスを裏切るかのような」暴露である。
これはもうプロレスファンなら誰しもが、あの
「ミスター高橋」の暴露本のことを思い出さずにはいられないだろう。
もっとも今回の徳光和夫の暴露というのは、別に「プロレスは試合の結末も作りごと」などと言っているわけではない。
初めてプロレス実況に任じられたときはイヤで仕方なかったというのも、昔から彼が言い続けてきたことである。
また、今回彼が喋ったのはプロレスの試合についてではなく、自分の実況していた(レスラー紹介の)セリフ・内容が「実は自分のでっち上げたデタラメだった」ということに留まる。
つまり、作りごとだと言っているのは自分についてのことだけなのだ。
その意味で今回の「暴露」は、プロレス本体には無関係なことだと言っても差し支えないだろう。
そしてこうまで言うからには、彼のレスラー紹介実況が彼のでっち上げた作りごとなのだというのは、本当のことだろうと思う。
そしてまた、
『プロレススーパースター列伝』の洗礼を受けたプロレスファンにとっては、そういう作り話は昔のプロレスにおいてはごく普通のこと――
「ロードウォリアーズはスラム街でネズミを食って生きてた」
というのと同じく、それもまたプロレス史の一部であると、怒ることなく寛容に受け入れられるのではないかと思う。
一言で言えば、プロレスにはそういう時代があったのである。 しかしやはり、なぜ徳光和夫が今頃になってこんなことを滔々と地上波テレビで喋ったのか、という疑問は残る。
ただこれは、私の推測の及ぶところではないので言及しない。
言及するのは、あのミスター高橋の暴露を経てもなおプロレスファンの間では、
「たとえ真実でも、幻滅するような真実を言うな」
「仮にも自分も属していた世界のことについては、真実を知っていても黙っておくべき」
という道徳が根強く残っているということだ。
世間一般的には、「真実を話さない・隠しておく・秘密を墓場まで持って行く」というのは悪いことである。
悪いことまではいかないにしても、残念で惜しむべきことである。
なぜなら真実を知ることこそが一番大事で価値があるというのが、社会の一般通念だからだ。
しかしプロレス界では、幻滅を防ぐために真実をあえて隠すことが善である、というのがいまだ道徳として生きている。
はたしてこれが、プロレス界と一般世間の乖離を示すものなのか――だからこそ現代社会ではかつてのようにメジャーな存在になれないのか――、
あるいはこういう面こそが隠微とも言えるプロレスの魅力になっているのか、
何とも言いようのない不可思議さを感じさせるではないか。
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