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なぜイジメ自殺は…その15 「文書を書き直せ」というイジメ――もし、その部下が夏目漱石だったら

 文書を何度も書き直させる。それで精神的に追い込む。

 いかにも官僚的な、公務員らしいイジメ方だとまず思う。

 しかしもちろん、公務員のみならず民間でも広く使われる手法である。(業務日報をやたら書け、書き直せなどという形で)

 資料編事例(1)の反省文、事例(2)のワンペーパー、これらを書き直させるのは一応「指導」の範疇である。

 「ダメなんだから直させるのは当然だろう」という正当性を隠れ蓑に「下」の者をいたぶるには、まことに最適な方法だろう。

 だからこそ広範に、そして手軽に使われるのである。




 さて次に思うのは、その「直せ」という人はいったいどんな文章を書くのだろうかという疑問である。

 私は、彼がさほどの名文を書くとは思わない。

 ビジネス文書の名文とは小説の名文とは種類が違う、ということには同意するにしても、その基準に照らしてさえたいした文章だとは思わない。

 私が彼ら警察学校の教官や捜査2課長の上司であれば、いともたやすく彼らの文を「直せ」と突き返すことができる。

 別にイジメをしようと思わなくてもそうできる。


 なぜなら文章とは、かかって好みの問題だからである。

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 たとえば、「平成27年度神奈川県東部営業活動総合推進計画」なる文書を作るとしよう。

 私はこれを「平成27年度 神奈川県東部営業活動総合推進計画」とスペースを空けて書く。(「活動」と「総合」の間も開けるかもしれない。)

 個人的に、漢字が多数連続するのが嫌いだからである。そうしたら見にくいだろうと思うからである。

 しかし世の中には、これを詰めて書くべきだと思う人がいる。そうするのが好きな人がいる。
 
 そしてまた、句読点を多く打つのが好きな人がいる。そうするのが嫌いな人もいる。

 これは、純然たる好みの問題ではないだろうか?

 だが好きな人/こだわりのある人はそうは思わない。

 自分の書き方が天下の大法、天下に通じるべき正しい書き方だと思っている。

 他人もそうして然るべきだと思い、そうしないのは「わかってない奴」「ダメな奴」「直させるべき奴」だと考える。


 
 もし彼の部下が、夏目漱石ならどうだろう。村上春樹ならどうなるだろう。

(ただし彼は、部下がそういう人物だとは知らないとする。そういう人物と全く同じ文才を部下が持っているとは知らないとする。)

 それでも彼は直させるに違いない。自分の好みに合わせることを(もちろんそうは露骨に言わないが)命じるに決まっている。

 これは端から見れば滑稽である。

 たかがおまえが谷崎潤一郎の、バルザックの書いた文章を直させる――身のほど知らずも極まれり、バカじゃねぇのかと誰もが嗤う。

 だがそれも、彼が自分の書き方が天下の大法であると心底から信じているならまだよい。それも一人の信念であると言えるからだ。

 しかしそうでないことは、彼にその部下が書いたのと全く同じ文章を、彼の上司の名前で出してみればわかる。



 私は賭けてもいいが、彼(教官・捜査2課長)は、その文章を直そうとはしないだろう。

 そうするのは無礼で生意気、上司や周りの人間にそう思われるのを恐れるからである。

 「上」の人間が書いた文章を直すなど、恐れ多く不遜で僭上(せんじょう)の振る舞いだと――そんなことをするのは礼儀・道徳に反することだと思うからである。

 本当に自分の書き方が天下に通じる正しいものだと思っているなら、誰が書いたものも直すはずだ。少なくとも意見ぐらいは言ってもいい。

 しかし、彼はそうしない。

 そしてまた他の人間も、そうしないのが常識で礼儀に叶うことと受け止める。(たぶん、あなたもそうである。)

 これが民主主義・法治国家を標榜する現代日本社会の実態であり、民主主義と人間の平等を正しいと思う日本人の、普通に抱いている道徳なのだ。

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 結局、「文書を書き直せ」と言っている人の「いい文章」の基準とは、その程度のものなのである。

 「正しい」基準など持っていないし、「持っている」と称していても、人によって適用したりしなかったり(できたりできなかったり)するのである。

 そしてここには、大きなヒントが埋められている。

 それは、文書を書き直せなどということは恣意的にどうにでも誰にでも言えるはずなのに、やはり言えない相手がいるということである。

 どんな横暴な人間にも、恐れるべき人がいる。

 彼はそんな人に対しては逆らえないし、イジメをするなど思いもよらない。

 だったら自分がそんな恐れられる人間になれば、「下」の立場にありながらイジメを受ける可能性は激減すると見込んでいい。


 だが、そんなことが可能なのか?

 可能であると私は思う。

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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