ここに来て「プロレス経営本」の出版が続いている。
10月末には
DDTの“大社長”高木三四郎が『年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで』を出し、
今はラーメン店をやっている“元・全日本四天王”
川田利明が『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学』という(かなり評判の高い)本を出し、
そして12月には
新日本プロレス社長ハロルド・ジョージ・メイ氏が『百戦錬磨:セルリアンブルーのプロ経営者』を発刊する。
何だろうか、このプロレス本の出版ラッシュは。
それもプロレスの選手や試合や団体史がメインテーマではなく、いずれもテーマは「経営」なのである。
むろん今までも、プロレス経営本が出版されなかったわけではない。
代表的なのは次の2冊で、著者はいずれも元週刊プロレス名物編集長のターザン山本(山本隆司)。
①『プロレス式最強の経営-「好き」と「気迫」が組織を変える』(1995年)
②『プロレス社長の馬鹿力-十人十色のインディー経営哲学』(2002年) 特に①は、本当は女子プロレスファン・尾崎魔弓ファンで有名だった故・堺屋太一氏が自分の名前で書きたかったが、プロレスなんかについて書いたら評判を落とすからターザン山本が代わりに書いた?とも言われる、曰く付きの本である。
しかしこの後、プロレス経営本の系譜はほとんど断絶する。
強いて言えばスペル・デルフィンが書いた、
③『めんそーれ! 観光プロレス、はじめました-新しく生み出す経営力』(2010年) くらいだろうか。
だがここに来て、またプロレス経営本の時代が始まったのだ。
このことは、
いよいよ現代のプロレスが「企業プロレス」時代にあることを鮮明に示すものである。
そしてまた、プロレスが必ずしも試合内容などでなく、ビジネス面から・企業経営面から、一般層に興味を持たれる存在になりつつあることを示唆する。
だが実際は、そういう傾向は今に始まったことでもない。
今まで夥しく出版されてきた「プロレス史」本の読者は、プロレス自体への歴史的な経緯への興味と面白さの他に、こうした経営的・経営史的な面への興味と面白さも感じてきたし――
やがてまさに、そういうものを求めて次々と本を買うようになってきた人も多いはずである。
猪木と馬場の暗闘から始まり、
UWFの誕生と瓦解、
メガネスーパーの参入によるSWSの誕生と瓦解、
アメリカでのWWEの全国制覇、
PRIDEの誕生と瓦解、
2000年代のプロレス暗黒期、
そして今の新日本を筆頭とする企業プロレス時代――
もしかしたらプロレスとは、リング上の試合よりそういう政治史的・経営史的側面の方が面白いのではないか……
と思う人は、プロレスファン全体の3割くらいはいるかもしれない。
確かに実際のところ、「プロレスに経営を学ぶ・社会を学ぶ」というのは決して倒錯した話ではなく、少なくとも興味を持つキッカケには充分なり得る。
プロレス単行本の中で最も数多いと思われる「UWF本」を読んできた人には有名な話だが――
当時の前田日明はこの世の中に「商業登記」というものがあるのを知らず、株式を持つというのがどういうことかも、全く知らなかったらしい。
そしてその株式保有こそがUWFの選手陣とフロント陣の分裂につながり、
最後は「UWFという会社の経営陣が、前田をはじめとする全選手を解雇」という、株式会社の仕組みを知らなければワケが分からない結末に至ったとされる。 今でも世間の人の多くは、商業登記も株式保有のこともたいして知らない。
特に若い学生など、そんなことに興味を持つ人はいまだにごく少数派なのだろう。
しかしプロレス史を読めば、そうした「会社経営や社会の仕組み」というものは相当程度にわかるのである。
これは世の親御さんたちにとって、意外な子どもの教育法とさえ言える。
「プロレスは社会の縮図」とはよく言われてきた言葉だが、それはまんざら大袈裟ではない。
これは予言と言うほどではないが、将来は――
いや今でも、「プロレス本・プロレス経営本を読んで経営というものに興味を持った、経営学を学ぶようになった」という人はいるのではないか。
政治史に興味を持ち、政治学の教授になるような人もいるのではないか。
プロレスには(世間一般にとっては)意外なことに、政治学や経営学・歴史学と相当の親和性がある。 プロレスをそういう面から楽しんでいる人も相当程度いるし、これからも増えるだろうと思われるのである。
- 関連記事
-
スポンサーサイト
コメントの投稿