案の定である。
やっぱり「プロレス技」の文字が暴行記事に載ったのである。
例の神戸市立東須磨小学校で起こった教師間いじめ事件について、被害者の男性教員が受けたという50項目の暴行・ハラスメントの主要項目を、神戸新聞が伝えた記事で――
「プロレス技で首を締め上げられる」という項目があり、
そもそも記事のタイトル名からして 「【教員暴行詳報】飲酒強要し平手打ち プロレス技で首絞め 髪の毛に接着剤」 となっているのだ。(⇒ 神戸新聞 2019年10月11日記事:【教員暴行詳報】飲酒強要し平手打ち プロレス技で首絞め 髪の毛に接着剤) ついでだが、この主要項目というのを、全て転載させてもらう。
ネットの新聞記事というのはすぐ消えてなくなるが、そうやって多くの人の目から見えなくなることは、よいこととは思えないからである。
**************
■直接的な暴力など
・平手打ちや蹴られる(加害教員の一人は毎日のように)
・防犯研修後、関節技をかけられる。「痛い、痛い」と言ってもやめない
・首を絞められて呼吸困難に(複数回)
・膝蹴り(複数回)
・プロレス技で首を締め上げられる
・背中を肘でぐりぐりされる
・足を思いっきり踏まれる
・紙の芯ででん部をフルスイングで殴られる
・印刷用紙が入った段ボール箱をいきなり頭に置かれる
・乳首を思い切りつねられ、数日間あざに
・乳首を掃除機で吸われる
・熱湯の入ったやかんを顔につけられる
・家庭科室で身動きができない状態にされ、激辛カレーを口に入れられる
■器物損壊など
・かばんに氷を入れられ、びしょびしょにされる(少なくとも数十回)
・車に大量の灰皿の水をまき散らされる
・「最近、子どもがトマトジュースにはまってるねん」と言いながら、車にトマトジュースをかけられた
・児童に配布するプリントに水を垂らされる(何度も)
・携帯電話を隠される
・出張前に「出張行ったら甘いもん買ってくるのが礼儀やろ」と言われたので買って帰ると、「こんなんで好かれようとするな」と目の前で捨てられた
・少しダメージ加工のあるジーンズをはいていると、「お前いちびってるから穴広げたる」と言ってビリビリに破かれた
■強要行為
・仕事が終わっていないのに「はよ帰りたいから送れや、くず」と言われ、車で送らされた
・送らされた後、下車するときにドアから出ずに窓から出たり、足でドアを閉められたりした
・無理やり、酒を飲まされる。「もう無理です」と言うと、「ざこいな」と顔を平手打ち
・ビール瓶を口に突っ込まれて飲まされ、飲み終えた瓶で頭をたたかれた
・激辛ラーメンを無理やり食べさせられる。「もう無理です。許してください」と言っても、「汁まで全部飲め」。食後、トイレに駆け込んで苦しんでいると、大笑いされた
・ドレッシング、焼き肉のタレ、キムチ鍋のもとなどを大量に飲まされる
・「太れ」と言って、大量の菓子を口に詰め込まれる
・ラーメン屋で、卓上にあったショウガの汁、酢を水に入れて飲まされる
■嫌がらせ、悪口など
・輪ゴムを顔に当てる
・指導案に落書きされる
・髪の毛や衣服を接着剤、洗濯のりまみれにされ、「こっちの方がかっこええ」
・仕事上の質問をした際、「誰に許可得てしゃべっとん。くずがしゃべんな」
・「性病」「くず」「くそ」「うんこ」「ごみ」などと呼ばれる(毎日)
・「犬」と呼ばれる
・児童に対し「○○先生(被害教員)の言うこと聞かんでいいで」と言われる
・児童に対し「○○先生(被害教員)はセミを食べるねんで」と言われる
・家族や親しい知人の人格を否定するような悪口を言われる
・運動クラブの際、「俺、なんもやらんからお前全部やれ」と言われた
・「お前みたいなやついじってんねんから、感謝しろ」「お前見てたらイライラする」と言われた
・加害行為について現校長の指導を受けた後、「くそやな」「謝るんやったら土下座でもなんでもやったるわ」「お前が全部言ったんやろ」などと言われた
**************
ここでは、この事件の内容や背景については触れようと思わない。
しかしどうしても思うのは、これだけヒドいイジメがこれだけたくさん羅列されているのに、なぜ記事のタイトルが
「飲酒強要」「平手打ち」「プロレス技で首絞め」「髪の毛に接着剤」
なのだろうか、という疑問である。
たとえば、「乳首つねり」「ビール瓶で頭部殴打」「家族の人格否定発言」のチョイスでも良いのではないだろうか。
少なくとも「飲酒強要」「平手打ち」よりは、ずっと世間の人にヒドいというイメージを与えることができそうである。
そして、もう一つの疑問は――
この「プロレス技で首絞め」というのは本当にプロレス技なのかという、いつもながらの疑問である。 この疑問については、以前にも記事を書いたことがある。
(⇒ 2019年5月17日記事:「プロレス技」という虐待イジメ報道記事の定型句について) プロレス技で首を絞めるって、それはネックハンギングツリーのことだろうか。
それともフロントネックロックのことだろうか。
いやプロレス界には、引退した飯塚高史がやっていたような「ただの首絞め」もあれば、本当に相手をリング外に放り出してロープで絞首刑にするやり方もある。
だがいやしくも「技」と言っている以上、やはり名前の付いた技なのだろう。
しかしそれがもし「チョークスリーパー」や「ギロチンチョーク」であるなら、むしろ「総合格闘技技」「MMA技」と言うべきである。 いつもいつも思うのだが、こういう虐待・暴行・イジメ放送記事に出てくる「プロレス技」というのは、具体的には何の技なのか?
新聞記者の間では、それがMMA技だろうと柔道技だろうと、とにかく悪いことの報道であれば「プロレス技」と書く仕来りがあるのではなかろうか。
もっとも私にもあなたにも、その理由はだいたいわかっている。
結局のところ今もなお世間の大衆には、総合格闘技やMMAといった言葉より、「プロレス技」の方がはるかに通りがよいのである。
その意味でプロレスという言葉は、依然「誰でも知ってる」神通力のある言葉なのだ。
いや、確かに、あまりにも通りがよく普及している言葉なので――
もしかしたら被害教員自身が「自分はプロレス技をかけられた」と心底思って、それをそのまま新聞記者に語ったのかもしれない。 だが一方、仮に被害者が「自分は柔道技をかけられました」と言ったところで、それは新聞編集の段階で「プロレス技」に修正される/されているということも、大いにあり得る話である。
そこには新聞記者の、デスクの、そして世間一般人としての……
「柔道技と書くのはいろんな意味でマズいが、プロレス技って書くならいいや」
という価値判断・予断・脊髄反射があると勘ぐるのは、はたして的外れだろうか。 そしてプロレス界は、もうそろそろ報道界に対して申し入れをしてもいいのかもしれない。
すなわち、
「こういう記事にプロレス技と書くときは、それが本当にプロレス技なのかよく確認して書いてくれ。
それがただ両手で首を絞めたとかチョークスリーパーとかだったら、他の格闘技にもあるんだから「両手・腕で首を絞めた」と書いてくれ」 という申し入れを、である。
もしこれがプロレス業界でなければ――
こういう新聞記事の書き方は、一つの業界に対するヘイトや名誉毀損に当たる、と声が上がっても全然おかしくないように思う。
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