私はこの点、プロレスが大いなる矛盾を抱えていることに言及しないわけにはいかない。
プロレス界の公式見解は、「選手同士は本当に勝敗を争っている。真剣勝負である」というものである。
リングに上がれば先輩も後輩もない、とは、実況アナもよく言っている。
しかしそれでいてプロレス界とは上下関係が特に厳しい社会とされ、ファンさえもそれを「あらまほしき姿」だと思っている節がある。
だがこれを、矛盾と言わずして何と言おう。
リング上では先輩も後輩もないが、リングを降りれば厳しい上下関係があるという。あるべきだとされている。
そんな状態で、本当にリング上に上下関係が反映されないなどと思うのは極めて難しい。 そんなことを信じられるのは、よほど純粋無垢のおめでたい人間と言うべきだろう。
もしこれを調和させようとするならば、やはりプロレス団体は劇団であり、プロレスラーは協力して劇を演じる「仲間」だと解さなければならないのではないか。
もしくは、全ての試合を団体対抗戦にしなければならないのではないか。 厳しい上下関係にある選手同士が、逆に仲のいい選手同士が、同じ団体に属しながら本気で勝敗を争っている/対立している。
同じ釜のメシを食い、一緒に練習していながらも、なおそうである――
これはなかなか、信じられる話ではない。
そしてまた、プロレスが「真の戦い」であるとの主張の説得力を、最も下げている点でもあろう。 そういう説得力を保とうとするなら、選手一人一人がバラバラであらねばならない。
プロレス団体は複数の選手を抱え彼ら同士を闘わせるのではなく、ただ闘いの場を設けるだけで、選手はよそから出場させるだけでなくてはならない。
そしてこれが、DEEPやUFC、かつてのPRIDEなど格闘技「団体」のやっていることである。
それは純粋なイベント業であり、「場」を用意する企業であり、所属選手を抱えてはいない。
だからこそその試合は「本当に勝敗を争っている」と言えるのであるし、周りもそれを信じる(少なくとも、信じやすい)のである。
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