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前田日明&塩澤幸登 vs 柳澤健 -UFWを巡る歴史論争

 この12月に入り、次の4冊の本を一気読みすることができた。

(1) 前田日明が語るUWF全史(上)

(2) 前田日明が語るUWF全史(下)

(3) 格闘者-前田日明の時代-①青雲立志編

(4) 格闘者-前田日明の時代-②臥竜覚醒編


 
 (1)(2)の著者は前田日明となっているが、しかし実際に文を書いているのは(3)(4)の著者と同じく塩澤幸登氏。

 塩澤氏は10年前にも『UWF戦史』という大部の3部作を出しており、(3)(4)がそれに続く作。

 そして(1)(2)はこの12月に出されたばかりで、もちろん2017年上半期に出された柳澤健『1984年のUWF』へ対する反撃・反論本である。

 今この「前田日明&塩澤幸登」連合軍と、『1976年のアントニオ猪木』でプロレス界に文名を上げた柳澤健 氏とが全面戦争の真っ只中にあるというのは、読書系プロレスファンには言わずと知れたことだ。

 私も『1984年のUWF』は発刊してしばらくして読んでいるので、双方の感想を書こうと思う。


 しかしその前に触れておきたいのは、この21017年になっての時ならぬプロレス本出版ラッシュ――

 中でもUWF本のラッシュについてである。

 むろんUWFは、1991年1月に崩壊・消滅したプロレス団体。それからもう30年近く(27年)が経過している。

 いったい他のあらゆるスポーツの中で、30年前の今はない団体について、こんなに出版物が出されるなんてことがあるだろうか。

 (異論はあろうが、ここではプロレスをスポーツに含める。)

 プロ野球の大洋ホエールズ(今のDeNAの前身)の本が、いや千代の富士の本でさえ、2017年になって発刊ラッシュになるなど想像がつくだろうか。

 この点に限っては、他のあらゆるジャンルの(関係者の)人がプロレスをうらやましがるに違いない。

(なんたって、この2017年に国際プロレスの本さえもまだ出るのである。)



 プロレスとは、こんなにも昔のことがまだ商売になるのだ。

 こんなにも昔のことに、ファンからの需要があるのだ。

 これに比べればサッカーもプロ野球もプロボクシングも大相撲も、まるでプロレスの相手ではない。

 それらはまるで自転車操業のようなもので、「今」のことしか売り物にならないと言って過言ではない。

 今まで積み重ねてきた歴史が、プロレスの場合は確かに無駄になっていない。

 昔が今もなお、生きている。

 多くの種類の業界人にとって、これはものすごくうらやましいことである。




 さて、本題の「前田&塩澤陣営」と「柳澤陣営」との対決に入ろう。

 この両陣営をそれぞれ一言で言うと、次のようになるという感想を持った。


●柳澤本は、佐山聡(初代タイガーマスク)を持ち上げ、前田とその他のレスラーを腐す本である。

●塩澤本は、前田を持ち上げ、佐山聡とその他UWF参加レスラーのだいたいを腐す本である。


  
 これは「一言で言う」という条件からして、非常に舌足らずな要約になってしまうのだが――

 しかしあえてさらに要約して言うと、


●どっちもどっち


 という感想になるだろうか。

 『1984年のUWF』を読んで思ったのは、「佐山聡こそUWFそして後の総合格闘技に繋がる道の真の真髄であり中核である」というような設定は、いくら何でも言いすぎではなかろうかということだった。

 一方で『UWF全史』『格闘者』を読んで思ったのは、前田日明というのは本当にこんなにも「苦悩する気高き悲劇の騎士」みたいな人なのだろうか、ということだった。

 もちろん柳澤氏も塩澤氏も、「自分はそんなことを書いたつもりはない」と言うだろう。

 しかし一読者の感想としてそう思ってしまったのだから、これは仕方ない。

 
 塩澤氏は『全史』の中で、柳澤健は「最初から前田を腐すという結論を作っておいて、それで本を書いた(『Number』に連載していった)」のだろう、と書いている。

 私はこれは、正鵠を射ていると思う。

 「通説打破」というか「定説に逆襲する」というのは、ものすごく魅力的なことだからである。

 これは何もプロレス本・UWF本に限らず、正真正銘の歴史本のオビなんかにも「通説に挑戦!」とか「通説打破」と書いてあるのが多いのを見てもわかる。

 これは著者の意欲面からしても本の売れ行き面からしても、とにかく魅力的なスタンスなのだ。


 そして言うまでもなく塩澤氏(前田日明)は、これに反撃するため『全史』を書いた。

 当然ながらその筆致は、前田擁護・佐山おとしめになるのである。

(「佐山はリアルファイトに弱かった、心がチキンだった、そもそもリアルファイトはマーク・コステロに惨敗した一回しかしたことがない。対する前田は本当に強かった」というようなことをハッキリ書いている。)


 私はこの明らかに公平な立場からではない「動機」によって本が書かれたからと言って、だからその本がダメだと言うつもりはない。

 そもそもこういう動機がなければ、どうして本が書けるだろうか。

 いや、どうして本を書こうという気になるだろうか。

 書いていくうちに最初は自分でもわからなかった結論に至る、ということもあるだろうが――

 圧倒的に普通なのは、最初から結論があってそれを書きたいがために書くというパターンである。 
 
 結論が出ているから、その結論を世に訴えたいから、結論が出ていて初めて本を書ける、というのが当たり前だ。



 それにしても柳澤本を読むと「佐山以外はロクなもんじゃない」と感じるし、

 塩澤本を読むと「前田以外はロクなもんじゃない」と感じるのも当然である。

 特に何というか、前田の「安生洋二・宮戸優光」に対する評価は恐ろしいほどクソミソだ。

 今まであった「安生洋二は(Uインターで)高田延彦に次ぐ、本当に強い人」という数々の同僚レスラーの証言は、一体何なのか……

 宮戸優光に至ってはプロレスラーとしても箸にも棒にもかからないが、人格的にも最低の言いようで、あげくの果てには殺人責任者にまでされている。

 不思議なのは、それでもUWFのメンバー全員を「家族」だと思っていたという前田日明の心根(こころね)である。

 これほどまでに評価が低い(ほとんど人間扱いしていない)ような相手に、何でそんな責任感や連帯感が抱けるものか、何としても不思議である。

 これなら1991年1月7日の前田日明の自宅会議で、安生と宮戸が「前田を信用しない」という態度を見せた(という)とき、これ幸いとその二人だけ排除すればよかったような気がするのである。


 そしてもう一つ前田に聞いてみたいのは――

 クリス・ドールマンらオランダの格闘家たちとUWF勢がガチンコ勝負することで、いずれUWFを本物の真剣勝負の団体にするつもりだった(もちろん宮戸らは脱落する前提)というが……
  
 「同じメシを食い、合同練習して、そして何よりも先輩・後輩の厳しい上下関係のある」同じ団体に属する選手どうしが、本当にプロレスでない(本当に勝敗を争う)真剣勝負が継続してできると思っていたのだろうか、ということである。

 これは当時のメガネスーパー社長の田中八郎氏もかねがね思っていたことらしいが、それが普通人の感覚というものだろう。


 しかし何にせよ「前田&塩澤 vs 柳澤」の戦い、そしてUWFを巡る論争は、一向に沈静化しない気配である。

 繰り返して言うが、これは30年前になくなった団体を巡る戦いなのだ。

 本当にプロレスは、他のどのスポーツよりも「深い」ものである……


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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙 表紙:『もうすぐ無人島になる瀬戸内の島へ』 ブログ販売欄掲載用

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