プロレスファンにとって、選手の入場曲(テーマ曲)とは大事なものである。
それが聴けない(著作権フリーの曲に差し替えられる)から新日本プロレスワールドへの加入をためらう人は、相当多数に上るはずである。
プロレス団体としてこれに対応する策は、むろん既存の曲を使わずオリジナル曲を発注して保有することだ。
実際新日本プロレスなどは、少なくとも所属する生え抜き日本人選手の曲は、全てオリジナル曲にする方針でいるように見える。
(気の毒にベテラン選手の真壁刀義などは、既存曲『移民の歌』があまりに定着しているため、オリジナル曲への切り替えが難しい。
きっと引退試合でさえも「ワールド」では差し替え曲が使われるのだろう。) しかしここで考えてみたいのは、既存の曲をJASRACへの(きっと、かなり高く感じる)使用料を払わずに使うのは、果たして著作権者(作曲者)に害を与えることだろうかということである。
もちろん、まさに曲を聴かせるためだけに――他人の曲をCDに丸々複製して売るとか、自分のサイトへの集客のために流すとか、そういうことをするのは論外だろう。
しかしながら、ネット中継でプロレス・格闘技の入場曲を(入場時と勝利時に)流すとか、
音楽教室で演奏したり練習のため流すとかいうのは、本当に著作権者に害を与えているのだろうか。 思うに、「プロレスから音楽に入る」というのはあり得る。
逆に「音楽からプロレスに入る」というのもまたあり得る。
プロレスを見ていて入場曲を聴き、「あっ、この曲いい曲じゃないか。何て曲なんだ、誰の曲なんだ?」と思い――
ネットで調べてそのアーティストのファンになった、という人はかなり多いのではないか?
その曲とアーティストとは、プロレスを見ていなければ一生知ることがなかったか、たとえ前から知っていたとしても「買おうとするほどには」好きに感じなかったかもしれない。 そして逆に、「プロレスなんて興味なかったけど、あのアーティストの曲が使われてるなら見てみよう」という人もいるかもしれない。
(しかしこのパターンは、なかなか少ないと言わざるを得ない。
プロレスがほとんど地上波放送されていない今では、なおさらである。)
つまり既存の音楽は、プロレス入場曲に使われることにより――
そうでなければ全然届けることのできなかった対象に、無料で認知されることができる。
おそらく平田一喜が(その前にはマグナムTOKYOが)「TOKYO GO!」をあれほど踊ったせいで、その作曲者がジョン・ロビンソンだと知った人は多いはずである。
その人たちの大部分は、プロレスを見ていなければジョン・ロビンソンの存在など一生知ることがなかったと思う。
そしてさらにその中には、ロビンソンの曲を探して買った(CDでなくとも、ituneでダウンロードするなどして)人もいたはずである。 高中正義はむろん“伝説のギタリスト”として有名であったが――
しかし彼の『サンダーストーム』が天龍源一郎の入場曲になっていなかったら、彼の名を知りファンになった人の数は、トータルで相当減っていたと思われる。https://www.youtube.com/watch?v=3OEhleDPdHE
当然ながらJASRACの人たちも、「フリーミアム戦略(商法)」というものは知っているに違いない。
フリーミアム商法とは、「最初は無料で提供し、それで大勢に知ってもらい/手を出してもらい、次いで有料バージョンに進んでもらう」ことを狙う商法である。 これは確かに、何の実証もない考えではあるが――
既存曲すなわちJASRAC管理曲がプロレス入場曲に「無料で」使われることによるフリーミアム効果は、けっこう無視し得ない程度ではないかと私は思っている。 どこかの店や場所に行ったとき、たまたまそこに流れている曲を聴いて「あ、いい曲だ。誰のだろう。他の曲も聴いてみたい」と思うことは、多くの人が経験していることと思われる。
特に音楽の場合は、そういうフリーミアムポイントをむしろ増やすことが、結果的に作曲者の利益増大に繋がる―― そういう想定または戦略も、選択肢の一つとしてあるのではないか。
もちろん、たとえそういう結果になったとしてもJASRACには一文も入ってこないわけだが……
JASRACが著作権者の権利を守ることを存在理由にしている以上、そんなスタンスを取ることも一考してほしいと思う次第である。
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