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モハメド・アリ死去 猪木vsアリ戦の記憶は永遠に

 元プロボクサーでWBA・WBC統一世界ヘビー級王者、モハメド(ムハマド)・アリ氏が、6月3日、米アリゾナ州フェニックスで死去した。享年74歳。

 なお彼は1960年のローマオリンピックにおける、アマボクシング・ライトヘビー級の金メダリストでもある

 プロ戦績は61戦56勝(うちKO勝ち36)5敗、1981年にトレバー・バービックに敗北して引退した。

(このバービックが後にUインターの高田延彦と対戦し、「敵前逃亡」負けしたのはプロレスファンの記憶に常に新しい。)

 引退後のアリは、死ぬまでパーキンソン病に悩まされた。それは30年以上という凄まじい長期間である。

 「モハメド・アリ死去」のニュースを聞くのもそう遠いことではない、と多くの人が何十年も思ってきたろうが、ついにその日が来たのである。


 さて、アリと言えば何と言っても、1976年6月26日・日本武道館における対アントニオ猪木の「格闘技世界一決定戦」――

 猪木にとっては、柔道金メダリストのウィリエム・ルスカ戦をスタートとする異種格闘技戦シリーズの3人目の相手であったことだろう。

(2人目は、なぜか同じプロレスラーのアインドレ・ザ・ジャイアントであった。)


 猪木・アリ戦。

 それはおそらく、世界格闘技史上最も謎めいた試合、かつ後世に残した影響の大きかった試合である。


 東洋の世界的には無名の一介のプロレスラーと、世界で知らぬ者のない現役ボクシング王者が、世界規模のテレビ中継が行われる中で対戦する――

 こんなことは、歴史上もう二度と起こるまい。

 そしてその「一介の」プロレスラーが、「あの」アントニオ猪木であったこと。

 猪木以外のレスラー(そしてボクシング以外の格闘家全員)には到底実現できなかったし、そんなことは考えもしなかったであろうこと。

 これは猪木に世界的な知名度をもたらすとともに、「日本における」モハメド・アリの知名度維持にも抜群の効果があったと思う。

 
 たぶん今の日本で、モハメド・アリの名を聞いたこともないという人は少ないだろう。

 「蝶のように舞い、蜂のように刺す」というアリのボクシングスタイルを指した評言のおかげも、もちろんある。

 このフレーズは、今でさえ使われることが珍しくない。


 しかしやはり、「猪木と戦った、当時のボクシング界で最強の男」として知られている面もあなりあるはずだ。

 マイク・タイソンを最後として、世界のボクシング界で日本人にも広く名の知られた王者というのは絶滅した。

 あなたは、そして道行く人は、いったい今の世界ボクシングヘビー級王者が誰だか知っているだろうか。

 思い出せないのではなく、実際に聞いたことも読んだこともないのではないか。

 日本においては亀田兄弟のことは誰でも知っているが、日本人以外のボクサーの名などほとんど誰も知ってはいない。


(余談)*******************************

 近年の日本におけるスポーツとは、半世紀前に比べてはるかにドメスティック(内向き)になっていると感じるのは私だけではあるまい。

 報道されるのは日本人選手・日本チームだけであり、外国のそれについて広く報道されることはほとんどない。

 サッカーやゴルフはそうでもないが、しかし「やむを得ず」そうなっている雰囲気もある。

 テレビ局をはじめとする日本メディアとしては、やはり日本人・日本チーム「だけ」を報道したいくらいだろう。

 もちろん、視聴者がそれを求めているから――日本人が活躍するのでなければ特番も中継も見ないからである。


***************************************
 

 しかしながらアリのファン及びボクシング界にとって、猪木vsアリ戦は「できれば歴史から消去したい/スルーしたい」出来事であった。

 モハメド・アリについての本は日本語でも数多く出ており、その一つ『モハメド・アリ―その生と時代』(岩波現代文庫)は、けっこう分厚い上下2冊セットの大著なのだが―― 

 猪木vsアリ戦についての記述は、たった5行程度なのである。

(いま手元に見つからないので、その5行を引用できないのは申し訳ない。)

 猪木vsアリ戦は、アリを「真面目に」記述しよう・歴史に残そうとする人たちにとって、抹消したいアリの汚点なのだろう。


 むろん猪木vsアリ戦の最大の謎は、それが真剣勝負であったかどうか――

 つまり、事前に勝敗(結末)及び試合展開を決めていなかったのかどうか、という点である。


(周知のように、現実の結果は3分15ラウンドをフルに戦って引き分けであった。)


 ごく常識的に考えれば、猪木がアリに勝つ可能性のある「真剣勝負」であったはずがない。そんなのをアリが飲むわけはない。

 健全な常識で言えば、試合前のアリがそう理解していたと言われるように、これはエキシビションマッチであって然るべきものである。


 しかしまた常識的に考えて、それならばあれほど「面白くない、単調な試合」になるわけもないと思える。


 これも(試合映像を見たこともない人にまで)よく知られているように――

 猪木がひたすら仰向けに寝てアリの脚にキックを入れようとし続ける、アリは踏み込んでパンチせず猪木の周りをグルグル回る。

 猪木vsアリ戦とは、そんな超退屈な試合展開が延々と続く代物であった。

 もし真剣勝負でないとするなら、最初から引き分けと決めていたのであれば、いくら何でももう少し盛り上がる展開を打ち合わせられたのではないか?
 
 猪木も、その周辺の人たちも、あれから何度も何冊も猪木vsアリ戦の「真実」「真相」について語り、著書を出している。

 しかしそれでも、本当の真実は誰も知らないままでいる。

 今後、アリ陣営の人がわざわざ「真相」を語ることもないのだろう。

 どうも猪木vsアリ戦の真実は、永遠の謎になりそうである。それは同時に、この試合が永遠に語られるものとなることでもある。


 今年は奇しくも、猪木vsアリ戦から40周年の年である。

 6月26日は「世界格闘技の日」に認定され、モハメド・アリはその日を目前にして死去した。


 「世紀の凡戦」と叩かれた猪木vsアリ戦は、確かに面白い試合ではない。

 しかし私は、「燃えろ!新日本プロレス」(集英社)シリーズのDVDで出る前から、ネットのdairymotionの動画でこの試合を何度も見てきた。

 同じ試合を、それも何十年も前の試合の動画を繰り返し見ることは、いくら好きでもそうそうはないことである。

 だがやはり、この試合の歴史的価値というものがそんな気にさせるのだ。

 ひたすら仰向けに寝て(しかし顔は起こして。あの状態をずっと続けるのは非常にキツいはずである)、スライディングキックとローキックを続ける猪木。

 「イノキ・イズ・ガール!」(猪木は女の子みたいだ)などと口に出し、コーナーに上がって目を見開き驚いた表情を見せるアリ。

 ロープ際でついにアリの腕を取り、場内の歓声がワーッと盛り上がったあの瞬間――(アリはロープブレイクで逃れる)


 繰り返しになるがあの試合は、二度と再生されないものである。

 たとえ人類の歴史があと数万年続いても、「現役の」ボクシング世界王者とプロレス王者が――特に猪木級のレスラーと対戦することは、もう絶対にないだろう。

 このブログを読んでいる人には釈迦に説法というものだが――

 猪木vsアリ戦の写真、特にモノクロ写真を見るとき、何か言いしれぬ歴史性そして「真のかっこよさ」というものを感じる。

 私は写真集というものに興味がない人だが、こういう写真集なら確かに買いたいと思う。



 猪木とアリが戦った30分間(ラウンド間のインターバルを入れないとして)は、世界格闘技史において永遠かつ無二の30分間となった。

 アリ自身がこの試合について本当はどう思っていたのか、それを聞くこともまた永遠にできなくなったが、そしてボクシングファンにとっては申し訳ない言い方になるが――

 アリは猪木戦をやったことで、「単なるボクシング王者」をはるかに超える歴史的な存在になったと思う。

 時代は流れ、彼の死から何十年も経ち、ボクシングファンさえも彼の名を聞いて「誰?」と思うようになったとしても……

 しかしプロレス・格闘技ファンは、絶対に彼の名を忘れないだろう。


 「現代総合格闘技を産んだ、原(プレ)総合格闘技戦」(こういう呼び方には異論もあろうが)を戦った男として、アリの名は永遠に残る。

 言い方を変えれば、彼はずっと「現代」にいてその名が語られる。

 こういうのを「不滅の存在」と人は言う。


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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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