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世Ⅳ虎vs悪斗① 今後の改善点

試合後の2月25日、スターダムは謝罪会見を行い、今後の改善点を3点挙げた。

①ルールの厳罰化。拳での顔面へのパンチは禁止、今後は一度でもそれをやると反則負けとし、その場で試合をストップ。

②リングドクターを本部席に置く。

③人間関係のひずみを大きくする前に改善・解決していくため、宝城カイリを選手会長とする。定期的に選手会を開き意見交換する。

 これについて、一つずつ感想を。


【①について】
 これはいいことだと思う。ナックル攻撃をしてよいとすれば、あっという間に試合が終わる可能性があり、それどころかそれが常態化して然るべきだとなってしまう。

 もちろん今も昔もプロレスでのナックル攻撃は反則である。
 しかしプロレスには、「レフェリーが5カウント数えるまでなら何をやってもいい=反則負けにならない=顔面をナックル攻撃してもよい」という「ルール」がある。
 そして現に大勢のレスラーがしばしばその手を使っている。

 だが、もし本当にプロレスが勝ち負けを競っているのなら、なぜいつもそうしないのか、なぜ誰も彼もそれをやって勝とうとしないのか、と疑問に思う(ツッコミを入れたくなる)のが普通だろう。
 パンチ一発を入れるのは一瞬で済む。レフェリーがカウントする間もなくノックアウトを狙えるはずだ。

 アントニオ猪木や天龍源一郎の「得意技」にナックルアローとかグーパンチだとかがあり、それを出すと反則なのに客が湧く。
 それなのに相手選手は同じ攻撃で返そうとしない/狙わない、というのは、プロレスファン以外には理解しがたい現象である。
 もっと言えば、「やっぱプロレスはインチキじゃねーか」と言わせる根拠にもなっている。

 またそういうこととは別に、プロレスにおける大半のナックル攻撃というのは、誰がどう見ても深刻なダメージを与えようとしてはいない。
 本気で振り抜いてはいないし、どちらかと言えば「チョコンと」または「擦るように」当てているのは誰にでもわかる。
(「わかる」と言って悪ければ、「感じる」と言い換えてもよい。)
 だいたい当てているのは拳そのものと言うより、指の第二関節に見えることが多い。
 これもまた、プロレスが本気で勝敗を競う「闘い」だという説得力を大いに損じている点だろう。
 格闘技陣営の人だけでなく、ただの素人からさえも「なんだあの“なんちゃってパンチ”は」と嘲笑される原因にもなっていよう。

 だから私は、「顔面パンチは全面禁止」(4カウント以内でも許されない絶対反則事項にする)ことは正しいと思う。
 そうすれば試合を長引かせることに説得力ができ、プロレスとプロレスラーにとって最も重要な「試合で魅せる」ことが合理性をもってやりやすくなる。
 なんで拳で殴ればいいのにそうしないのか、という当然の疑問に、「そんなことすれば即反則負けになるからだ、勝敗を競ってるんだからしないのが当たり前だろ」と自信を持って答えられる。


【②について】
 これは団体にとって大きな負担だろう。プロレスの試合をやるのにリングドクターがいないというのがそもそもあり得ない、とは一般人が思うことだが、しかしその一般人がプロレス興行をやるとなると、やはり医者を呼ぶのは躊躇するはずである。
 
 医者を3時間くらい興業の場に拘束すれば、たとえ何も起きなくても支払う報酬が高額になるのは想像できる。
 プロレス好きの医者がボランティアでやってくれることもあるだろうが、しかし試合は東京の後楽園ホールだけで行うわけではない。
 地方巡業の際はいちいち地元の医者をそのつど呼ぶのだろうか? その人捜しや日程調整だけでもけっこう大変だと思う。
 
 一般家庭だって消火器を備えていた方がいいに決まっている。非常食を蓄えておいた方がいいに決まっている。
 しかしたいていの人はそうしない。たいした負担ではないはずなのにである。これは私もそうなのだが、なんとなくそういうのが必要になるのは「自分のところに限っては」あると実感できないのだ。

 だからスターダムに限らず、無数のプロレス団体のほとんどがリングドクターを待機させていないのは当たり前と言える。
 またそんなことをするほど充分な利益を上げているプロレス団体、というのは残念ながら少数だろう。

 しかし、スターダムは「置く」と言った。
 重い負担をしょったものである。
 今度事故があった時に医者がいなければ、ウソつき団体として崩壊しても仕方なくなった。


【③について】
 宝城カイリを選手会長とすることが今後の改善点の一つだ、というのは、「は? 何でそれが改善策?」と部外者に思わせずにはいない。
 しかしもしかしたら、これが今回の改善の中で一番効果があるのではないかと私などは思う。

 「あの人が課長になればいいのに」と多くの人が思うのは、どこの職場でも普通にあること。
 おそらく宝城カイリはその種の人なのである。

 安川悪斗はスターダム内で孤立していたという。しかしカイリがその悪斗と親友同士なのはよく知られている。
 社員の誰かをまとめ役に抜擢すれば社内環境が改善される、というのは部外者には全然ピンとこない理屈だが、やはり実際に効果が見込める(ことがある)のである。

 もちろん私はスターダムの誰とも接触があるわけでもないので断言はしないが、カイリはいわゆる「たいていの人とうまくやっていける」「好かれる性格」なのではないかと感じる。

 今回の事件で、スターダム内で本当にドロドロの人間関係・敵対関係があることが公になってしまった。
 明るさと華やかさをウリにするスターダムの内情がそうだった、というのは間違いなくイメージダウンだし、日常から離れた夢を売るという観点からは大失敗だとしか言いようがない。
 だからといって、スターダムが本当は陰湿な団体なんだとバカにしたり見下す立場に他の人がいるわけでもないだろう。

 プロレスは社会の縮図だとよく言われる。
 だがそれは別に、ことごとしく言い立てることでもないと思う。
 別にプロレス界でなくてもどこでも……タクシー業界、野球界、柔道界、町内会その他どこでも、我々の働く職場だって全て社会の縮図と言える。
 この種の人間関係はどこにでもあるし、本当は激発寸前のマグマのような対立だとか、口に出せない好き嫌いが隠されていることも全然珍しくはない。むしろありふれた状態と言える。
 スターダムが陰湿なら、どこの職場も学校も充分陰湿なのである。

 ただプロレスでは、そういうものが時に大勢の他人の前にあからさまに現れることがある。
 いったいこれは演技なのか設定なのか、レスラーが本心から/単独でやっていることなのか、区別が付かないこともよくある。
 目の前で起こっていることははたして一から十まで作りものなのか、それとも本当のことそのままなのか、少なくとも本当のことを下敷きにしているのか。
 今回の事件がなければ、世Ⅳ虎と悪斗の対立関係もどうせアングル、ストーリーを盛り上げるための設定だろと、多くのファンが思うし語っていたことだろう。
 
 「虚実皮膜」(きょじつひまく。真実とは虚構と現実の狭間にある、という意味)などという言葉は、現代では読書系プロレスファンでもなければまず目にしないし使わない。
 このたび我々は、世Ⅳ虎と悪斗の対立がアングルでなく本物だったことを知った。
 その対立が、リング上で本当にさらけ出された現実を見た。

 これはスターダムファンにとって認めたくない/見たくなかった現実だろう。
 だがあえて言えば、まさにこういう点こそが、大の大人にプロレスを見させる最大の魅力なのではないか。
 目の前の現実がリアルなのかフィクションなのか、一筋縄ではわからないことこそが、プロレスラーでもない者がプロレスについて何十年も読んだり書いたり語ったりする原動力になっているのではないだろうか。

 そんなものを他人に広く見られる本人・団体にとってはたまった話ではないだろう。そんなものより純粋に試合を見てくれと言いたいだろう。

 しかし逆にプロレスは、 「単純に/純粋に勝ち負けを競う」他のスポーツが備えていない(備えようともしていない)深みを持っているとも言える。
 表の試合だけではなく、その裏にある何かを読み取ろうと観客にさせる。
 ライトなファンにとっては確かにどうでもいいことではあるが、プロレスのこういう性質が、いわゆる「活字プロレス」とコアなファンとを成り立たせていることは間違いない
スターダム謝罪会見スターダム謝罪会見
宝城カイリ宝城カイリ

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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