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NOAHは現代のUインターか? その5 「新日本幕府ノア藩」の成立

 新日本は鈴木軍以外にも、その所属選手を大勢NOAHに派遣している。
 しかしその選手たちというのは、決して一線級・主力級とは言えない。
 こう言っては何だが(しかし誰もがそういう感想を持つが)、だいたいにおいて「高年齢組」である。

 昨年は永田裕志が長期にわたりGHCヘビー級王者に君臨し(2月8日~7月5日)、それを取り返した丸藤に挑戦したのも小島聡だった(今年1月10日。小島の敗戦)
 新日本はDDTにオカダ・カズチカや棚橋弘至といったバリバリの一線級トップを派遣しているというのに、この違いは何だろう。

 なるほど鈴木軍がGHC全ベルトを奪取するというアングルは、NOAHにとって屈辱的なことかもしれない。
 しかし先にも言ったように、これはプロレス界では「よくあること」の一つでもある。
 NOAHの本当の屈辱は、その少し前すでに起こっていた。

 新日本・2015年1月4日の東京ドーム大会。
 言わずと知れた毎年恒例、日本のプロレス界で最大のビッグマッチである。
 この大会において永田裕志は、第0試合(ニュージャパンランボー。ランブル形式で大勢の選手が参加する)への出場だった。
 報道を信じるならば、永田はショックでレスラー引退も頭をよぎったらしい。

 仮にも前GHCヘビー級王者が、半年前までNOAHの頂点にいた者が、新日本においては本戦にすら出場できない――
 新日本もエグいことをする、と思った人は私だけではないだろう。
 もうこれだけで、新日本がNOAHに外交的配慮というものをまるでしていないことが感じられる。


 なお同じ東京ドーム大会では、丸藤正道とTMDK(マイキー・ニコルス、シェイン・ヘイスト)のNOAH勢3人が出場(もう一人のパートナーは新日本の矢野通)し、わずか5分で鈴木軍とのタッグマッチに快勝している。

 しかしこれだって、怒った鈴木軍がNOAHに侵攻するためのきっかけ作り・ストーリー作りだったとも取れる。
 また、現GHCヘビー級王者と、NOAH最高と目されるタッグチームとに、たった5分しか活躍の時間を与えなかったとも言える。
(もちろん「プロレスの勝敗・流れはあらかじめ決められている」としてである。)

 もっとうがった見方をすれば、それでも出場は許された丸藤とTMDKら3人は、「もしNOAHが崩壊した時、新日本が引き取ってもいい選手」なのではないかとも思える。

20150324丸藤・TMDK(20150104新日本東京ドーム)
左からシェイン・ヘイスト、矢野通、丸藤正道、マイキー・ニコルス(2015年1月4日 新日本・東京ドーム)



 ただし、今でさえ飽和状態の新日本にこれ以上選手を増やす利点があるか、あると新日本が思っているかは不明である。
 また、仮に丸藤ら3人が新日本に入団したとして、TMDKはともかく丸藤の未来は明るいものではないだろう。

 今の新日本に加われば、たぶん丸藤は埋没する。
 NOAHの象徴であり副社長でもあった者が「裏切って」新日本に入った、という悪印象も生じてしまう。
 丸藤もそれはわかっていようし、新日本からも「外敵だからこそ価値がある選手」と思われているだろう。

 これを敷衍すると、やはりNOAHは新日本にとって併合する対象でなく、傘下の「外敵」として生かしておくべき存在ではないかと思う。 
 いつでも自由にオファーできる外敵を持っておくのは悪いことではない。
 また、余剰選手を活躍させる場として利用することもできる。
 そしてこれこそが今のNOAHの実態だと感じない人がいるだろうか?

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 もし新日本がNOAHを吸収合併したとして、新日本にどんな利益があるかを考えてみよう。

 まず、興業日程・興業地のバッティングは防ぐことができる。興業戦争は避けられる。
 ただしこれは、何もなくても(協力関係、従属関係がなくても)それぞれ自主的に調整するようなことだろう。
(もっとも、これだけの他団体時代がこれだけ長く続いていれば、いちいち調整などしていないのかもしれないが。)

 次に思いつくのは、今までNOAHを見ていた客が新日本に流れるのではないかということである。
 これはあり得るかもしれない。
 今の新日本はそのための下地作りをしているとも、見ようと思えば見ることができる。
 しかし私は、確かに何の根拠もないが、それよりは他の団体に――NOAHとの興業地のかぶり具合や歴史的経緯などから見て、とりわけ全日本に――流れていくような気がしている。

 また、たとえ新日本がNOAHの興業能力を全て手に入れたとしても、たとえば興業数を倍にできるわけでもない。
 そんなに多くやっていればいくら何でも選手の体が保たないからだ。

 では、かねてから話題に上っている「二部リーグ制」を実現するため、という見方はどうだろう。
 NOAHの選手を(全部ではないが)吸収すれば、新日本の選手数はさらに増える。
 それを二つに分割し、日本の東西でそれぞれ興行を開催する。
 あるいはWWEがやっているように、一方を下部リーグと位置づける。
 これもまたあり得る話である。

 しかしこれまた私の意見に過ぎないのだが、団体を分割することは結局は団体の凝集力を弱めることにしかならないと思う。
 ことにプロレス団体の場合、それは分裂の種を蒔く結果を招きかねない。
 (大相撲のような「部屋別制」を試みたSWSの末路が思い起こされる。)

 NOAHは南米のプロレスラーを招き、南米へ遠征もするという、独自の海外展開を行なっていた。(最近はやっていないようだが)
 しかしそれを新日本が手に入れたからと言って、たいした利益があるとも思えない。


 となるとやはり、「いつでもオファーできる外敵」「自団体の余剰選手の捌け口」という位置づけが適当ではないかと感じられてくる。
 そして「新日本とNOAHが財務提携を結んだ」(もちろん新日本が上の立場)、「新日本がNOAH選手のグッズ販売権を得た」などの噂が正しいとすれば、確かにNOAHは新日本の植民地化したとしか取りようがない。

 しかしまたそれは、NOAHが形の上では独立した団体であり続けるだろうことも意味している。
 そうでなければ「外敵」「捌け口」の役目を果たせなくなるからである。

 これは、国際政治上でいう「属国」「傀儡国家」「衛星国」とも言えそうだ。
 他国をそういう存在にするのは自国の利益のためであり、自国の「味方」を増やすためである。
 それがプロレス界では、適当な「敵」を確保するためという点が異なっている――そういうことになるのだろうか?

 ただ私としては、属国とか衛星国とか言うよりは、「藩」と言った方がいいような気がする。
 NOAHは新日本の傘下になった、しかし一応は独立性を保っている、しかし上意の干渉も受ける――
 つまりこれは、「新日本幕府ノア藩」の成立と言えないだろうか。


 我々はひょっとして、「徳川家に反抗しなかった/滅ぼされなかった場合の豊臣家」をNOAHに見ることになるかもしれない。
 NOAHは大坂城を退去し幕藩体制下で一大名として存続する、仮想歴史上の豊臣家になるのかもしれない。

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 もっともここまで引っ張っておいて何だが、そして人の心が読めるのでない以上当然ではあるのだが、新日本の真意は闇の中である。
 すでにNOAHは新日本の配下になったのかもしれないが、それもファンにそう思われてしまっては価値がなくなる。
 「どうせNOAHの選手だから、新日本に言われれば言うとおりになるんでしょ。いつでもどこでも寝るんでしょ」と思われたら終わりである。外敵としての価値がなくなる。 
 
 NOAHが新日本の下部団体だとプロレスファンに広く認識されたなら、NOAHの威信はもちろん堕ちるしNOAHに出場する新日本選手の価値も落ちてしまう。
 NOAHへ出向・定着し主戦場とすることは、新日本選手にとって「都落ち」ならぬ「NOAH落ち」したと見なされかねない。
 棚橋弘至や中邑真輔が永田裕志のようにNOAHへ行ってGHC王者になれば、人は「ああ、棚橋らも高年齢組になった。新日本の主力から外れた」と感じるだろう。(違うだろうか?)
 
 もちろんいつかは棚橋も高年齢組になり主力から外れる時が来るのだが、それでも活躍の場を与えられる子会社があるのは利益ではあるのだが、そういう印象を持たれては台無しである。
 しかし今のような新日本のやり方だと、そういう印象を持たれるのはほとんど必然のように思える。

 本当に新日本は、NOAHをどうするつもりなのか?

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 プロレス関係のネット掲示板には、まるで何でも知ってて何でもわかってるかのような人の書き込みが多数ある。
 しかし今後のNOAHと新日本がいかなるストーリーを描こうとしているか、確信を持って予測できる人はいないだろう。
 直近の5月10日のGHC戦――鈴木みのると丸藤正道のリマッチの結果がどうなるか、その先にどんなストーリーまたは現実の成り行きが用意されているのか、わかっている人もいないだろう。

 新日本が純粋に(もちろんビジネスの視点は忘れずに)NOAHの復興を願っている、という可能性もないわけではない。
 かつて新日本が苦境にあったとき、NOAHから選手の派遣を受けた恩を返す意識もあるかもしれない。
 (2009年1月4日の東京ドーム大会には、死を半年後に控えた三沢光晴と杉浦貴が参戦した。)

 正規の新日本所属選手でなく鈴木みのるというフリーの傭兵隊長にNOAH制圧を託したのは、完全に植民地にしたと思わせない配慮、あるいはせめてもの温情だったのかもしれない。

 ただ一つ思うのは、相手が全日本だったらどうなのだろうということである。
 もし今の全日本から新日本が支援要請を受け、ベルトも全部手放します、三冠王者にもなってください、その前三冠王者がイッテンヨンでは本戦に出られなくても文句は言いません、などと言われたらどうするだろう。

 私には新日本側が、「いや、あなたのところは馬場さんの後を継ぐ団体でしょう。そんなことはやりすぎでしょう」とたしなめる光景が目に浮かぶ。
 おそらくは新日本側からそんな提案もしないと思う。
 かつてプロレス界を二分した「敵」に対し、そこまではできない/してはいけないとの意識が働くと思うのである。

 言い方を変えれば、そういう「扱いづらさ」があるからこそ、新日本は全日本と絡もうとしないのかもしれない。
 とはいえ、全日本の財務状況はNOAH以上に救いようのない状態にあるという、ミもフタもない理由が真相である可能性もあるのだが……


 かつて新日本はUインターを破った。
 ただしUインターのリングに乗り込み、高田延彦のプロレスリング世界ヘビー級(団体最高峰のベルト)を奪取したわけではなかった。
 しかし今、新日本と鈴木軍はNOAHのリングに大挙乗り込み、至宝奪取はおろか彼ら抜きでは試合も組めないかのような状況を作り出した。

 歴史は繰り返すと言うが、しかし全く同じ形で繰り返されるわけではない。

 Uインターとは違う形で新日本に敗れたNOAHは、しかしやはりUインターと同じ道をたどるのか。
 2015年3月15日の約1年後、崩壊の時を迎えるのか。
 それとも団体史の中の低迷期、暗い1ページというだけで終わり、自力復活への道をたどるのか。
 あるいは本当に新日本幕府の下でノア藩として存続し、それでも何事もないかのように日々の試合が続いていくのか。

 NOAHの今の状況は――ましてNOAHが新日本の傘下になる/なったという有力な噂は、熱心なNOAHファンにとって信じがたくも信じたくない現実である。 
 しかし考えてみれば、新日本が子ども向けカードゲーム会社の子会社であるというのもまた、なかなかに超現実的な事実である。
 
 そしてそれが新日本の復興に繋がったのも、事実として認めなければならない。
 どんな形でも存続しさえすれば、いつかはNOAHも復興する可能性がある――明治維新をやった、長州藩の毛利家のように。

 いずれにせよNOAHの近未来の行く末は、プロレス界にとって当分は最大の関心事であることだろう。

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コメント

[C14]

NOAH 立ち上げから (さらに言えば全日四天王時代) ファンとして見守ってきた私にとって、現在の団体の苦境を見ると、心苦しいばかりです。

小橋の引退は仕方ないとしても、秋山や潮崎の離脱は大きかったと思います。

特に、三沢光晴さんの最後のパートナーの潮崎が抜けたのは。

先日の三沢光晴さん追悼の広島大会を会場で観戦していても、馴染みのない小柄な選手ばかりで、喪失感を感じるばかりでした 。

(私はCS 放送を見れないので、地上波打ち切り以降は、小橋引退試合のDVD を除き、ネットで試合結果を見ることしかできません)

三沢光晴さんが亡くなって6年。
若手が全然育たないという異常事態のまま、ここまでよく持ちこたえたというべきなのでしょうか?

KENTA の凱旋まで、持ちこたえてほしいですが、新日本の植民地化された状態も忍びません。

鈴木軍は今年いっぱいまで、と別冊宝島に書かれていたそうですが、そうだとすると、いよいよ来年には、NOAH は無くなってしまうのでしょうか?

心配でたまりません。
  • 2015-07-05 16:55
  • ムームー
  • URL
  • 編集

[C17]

 確かに今のNOAHは、まるで「ジュニア専門のインディー団体」にも見えます。

 ただ、プロレス団体というのは、存続させようと思えば結構存続できるものなのですね……

 全日本女子プロレスも、会社としては破産していながら、日銭商売だったおかげで数年は延命できました。

(結局潰れたのは事実ですが。)


 変なたとえをすると、あの北朝鮮も潰れる潰れると言われ続けていながらいまだ健在です。

 世界の主要国とはとても言えませんが、もしかするとNOAHもそういう形で存続は可能なのかもしれません。

 しかしそれがファンの望む姿かというと――


 私としては、拳王・大原はじめ・石森太二、そして熊野準と友寄志郎の踏ん張りに期待しているのですが。 
  • 2015-07-06 02:48
  • 平 成敏
  • URL
  • 編集

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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