NOAHはプロレス界において、メジャー団体の一つとされている。
馬場全日本の正統後継団体だというイメージが、試合内容の高さというイメージと相まって、そのブランド力の源泉となってきたことは間違いない。
NOAHは馬場全日本から分裂して成立した。
それでも元の全日本が存続した以上、そちらが真の正統後継団体に決まっている。 しかし馬場全日本の選手・スタッフのほとんどがNOAH旗揚げに参加したことにより、四天王プロレスに代表される全日本の実質はNOAHに継承・移行されたと受け取られるのは必然だった。
全日本は実際上、名のみ残って中身は全然変わってしまった。
武藤全日本は馬場全日本とは全く異なる団体だったのであり、武藤は馬場プロレスの継承など(当然のことながら)あまり考えていなかったと思う。
しかし今、武藤は全日本を離脱しwrestle-1を旗揚げした。
全日本にはNOAHを離脱した秋山準が復帰し、社長にまで就任した。
馬場元子(ジャイアント馬場の未亡人)も和田京平レフェリーも、秋山全日本についた。
そして秋山は、馬場の王道プロレス継承を公然と掲げている。
(ちなみに上記の展開は古参のプロレスファンにとり、今回NOAHが全ベルトを失陥したことなどよりはるかに意外で驚くべき事実のはずだ。
馬場の後釜が武藤であるなどと、どうやったって予想も空想もできなかったろう。今から振り返ってさえ違和感ありまくりである。)
これはつまり、NOAHが馬場全日本の正統を継ぐ団体というイメージ及び実質を失ったことを意味しないだろうか。 今のNOAHは旗揚げ当時のメンバーと全然違う。タイチの言う「インディーの寄せ集め」状態とは、半分以上に正鵠を射た表現である。
今のNOAHと馬場全日本の繋がりとは、丸藤正道や森嶋猛が(ギリギリ)馬場全日本でデビューしたこと、四天王の一人・田上明がNOAH社長を務めていること、日テレとの縁がまだ続いていることくらいしか思い浮かばない。(ジャンボ鶴田の記念大会をNOAHがやったことも含めてよいか?)
要するに今のNOAHの位置づけは、「馬場全日本から枝分かれしたインディー団体」ということになるだろう。
そして本当は、それこそがNOAH本来の姿なのである。
NOAHは今、本来の姿に回帰したのである。 ここでついでに、プロレス界におけるメジャー団体とインディー団体の区分とは何なのか見てみよう。
これについてはいろんな意見がある。
鈴木みのるは週刊プロレスの連載で、「力道山と直系でつながる団体がメジャー」という意味のことを書いていた記憶がある。
週刊プロレス自体はどうも、「新日本と全日本から出て行った、その出て行った時点で世間的知名度のある選手が創設者の団体はメジャー」としているようでもある。 だから新日本と全日本はもちろんのこと、NOAH(創設者は全日本出身の三沢光晴)・wrestle-1(創設者は新日本出身の武藤敬司)もメジャー扱いしているのだろう。
ドラゴンゲートはちょっと微妙だが、「実質メジャー」と言われても「メジャー」とはっきり言い切る人が見られないのは、創設者がウルティモ・ドラゴンだからなのだろう。(新日本に練習生的立場で在籍していたことはあるが、デビューはメキシコである。)
しかし、どちらの定義を使っても、IGF(創設者はアントニオ猪木)と大日本プロレス(創設者はグレート小鹿)が決してメジャーと呼ばれないことの説明は難しい。
猪木は言うに及ばず、小鹿もまた力道山に直接の教えを受けた直系であり、全日本の有力選手でもあった。
またこの定義だと、大仁田厚(全日本のジュニア王者だったことがある)のFMWもメジャーだったとなりかねない。しかしもちろん、誰もそんなことは言わない。
逆にFMWはインディー中のインディー、インディーの代表格として歴史に名を残している。
そこで私はシンプルに、「全国地上波放送がある団体」をメジャー団体だと考えたい。
つまり今の日本のプロレス界で、メジャーと言えるのは新日本だけである。 もし新日本が地上波放送を失えば、プロレス界にメジャー団体はいなくなる。
メジャーとインディーの二分法を使う限り、全団体がインディーということになる。
あるのは規模の大小と、歴史の長い短いだけ――
自分で思うのもなんだが、これは現実というものを正確に反映していると思う。
地上波を失った新日本は、「旧メジャー」であり「業界最大手の老舗団体」ということになろう。
また全日本は、日テレがNOAHを選択した時点でメジャーでなくなったことになる。
そしてNOAHは、日テレが地上波放送を打ち切った2009年3月時点でメジャーでなくなっていたことになる。(三沢の存命中である) これが、正しくも実態に即した認識なのではないか。
「全国地上波放送がある団体がメジャー」との定義によると、第一次・第二次UWFも、その分裂したUインターもリングスも藤原組も、インディー団体だったことになる。
誰もそうだとは言わないが、私はそれが正しい理解だと思う。
ただ、分裂前のUWF、それに「企業プロレス」SWSには、「新メジャー」となれる可能性があったとも思っている。
(※藤原組からさらに分裂したパンクラスは、最初のうちこそ営業上の理由で「ウチもプロレス団体として扱ってくれ」とプロレスメディアに訴えていた。しかしやがてプロレス自体から離れ、今では純粋な総合格闘技団体として存続している。プロレスインディー団体から総合格闘技団体への移行に成功した、珍しい例と言える。)
NOAH創設に関する本を読んでいると、三沢は当初ほんの少人数で時たま興行を打ち、そこそこ食っていければいいという気持ちで全日本からの離脱を決意したようだ。
それは新たなメジャー団体を作ろうとの意気込みではなく、まぎれもなく一つのインディー団体を作ろうとした試みである。
しかし、図らずも全日本を壊滅寸前に追い込むほどの大人数がついてきた。
日テレもNOAHを選択した。
よってNOAHは「メジャー成り」した。
時は流れて今のNOAHは、実質的にも名目的・歴史的にもインディー団体になったと言ってよい。
地上波放送はなく、選手構成はインディー出身者が多く、馬場全日本の正統継承者の地位・イメージは秋山全日本が受け継いだ。
しかしそれは――NOAHが馬場全日本から分裂したインディー団体であるということは、そもそもの初めからそうだったのだ。
創設者・三沢も初めはそのつもりで独立を決意したのである。
スカパーの定期放送があるという観点から見ても、NOAHと全日本とwrestle-1は、ドラゴンゲート、DDT、スターダム、OZアカデミーらと同格である。
ひょっとすると東京愚連隊とも同列にあるかもしれない。(まあ、さすがに言い過ぎだが) 違いと言えば放送頻度くらいだろうか。(しかし、これは確かに重要な違いではある)
今のNOAHを見る時は、そういう見方をするのが妥当だろうと私は思う。
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