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プロレスベルトと芥川賞の価値・権威 その9 虚構の中の真実

 現代の芥川賞は、その賞を受賞して初めてその作品・作家の価値が認められる。

 価値も名声も売上げも、全ては賞の獲得によってもたらされる。

 これはプロレスで言うと、ベルトを獲得して初めてそのレスラーの価値が認められる、ということになる。

 あるいはそのベルトを賭けたタイトルマッチであれば、どんな対戦カードであろうと試合の質がどうであろうと、とにかく衆目を集めチケットが売れるのだ、ということになる。


 しかしプロレスファンは、プロレスの現実がそうでないことを知っている。 

 ベルトに価値があるのは、それを巻くレスラーに価値があるからである。

 そのレスラーが今まですごい試合をしてきたから、心を打つことを積み重ねてきたから、そういう人間が何人も巻いてきたからこそ、初めてベルトに価値が生じる。

 たとえプロレスが「作りごと」であろうとも、勝敗が初めから決まっているものであろうとも、そうでなければファンは価値を認めない。


 それがわかっているから、会社もたいしたことないレスラーにベルトを巻かせようとはしない。(たまに例外はあるように思えるが……)
 
 また、タイトルマッチだからと言って必ずしも客が集まるわけでもない。

 話題性のあるカードこそ客を集めるのは確かだが、その話題性とはやはり対戦レスラー同士の今までの実績から生じるのであり、決してベルトのおかげではない。


 これは、見ようによっては、プロレスベルトの権威が未成熟であることを示しているのかもしれない。

 すなわちプロレスベルトは芥川賞のように、賞の名前だけで権威を保持し、それを手にした者へ自動的に権威を生じさせるまでには至っていない――

 だが私は、このうちどちらが「本当の権威」かと問われれば、それはプロレスベルトの方だと思う。



 芥川賞はまず賞という権威が先にあり、それに当てはまった作家作品がにわかに権威と名声を得る、という構造になっている。

 そこには近年のプロレス界における、「中邑真輔がIWGPインターコンチネンタルベルト(2011年設立)の価値を上げた」などという現象は起こりようもないように思える。


 この記事もずいぶん長くなったので結論を言うと――

 虚構と呼ばれるプロレスの方が、芥川賞よりもはるかにリアルな権威を保持していると私は思う。

 芥川賞の権威は、それ自体で権威を生じさせる「進化した権威」なのかもしれないが、しかし生物界と同様に、進化は必ずしも進歩ではない。

 進化というのが特殊化を意味し、その生物を特定の場でしか生存できない袋小路に至らせることも多々ある。

 絶対的権力は絶対的に腐敗する、という有名な格言に倣えば、絶対的権威は絶対的に下落する、とも言えるだろう。


 絶対化・神格化された何ものかも、いずれはその地位から滑り落ちる時が来る。

 その中で生き残り復活するものがあるとすれば、それは足腰の強い、より本源的で「原始的」な権威である可能性は高い。


 芥川賞の選考では本当に名作が鎬(しのぎ)を削っているのかどうか、事実上はブラックボックスの中にあると言ってよい。

 たとえその過程や候補作が公開されていても、人々が読もうと思うのは受賞作だけだからである。

 しかしプロレスは、日々の試合でオープンに一般の観客の目の前で鎬を削る。

 その全てが名勝負・好勝負であるわけもないが、その積み重ねはともかくあからさまである。

 観客はタイトルホルダーだけを視聴するのではなく、他のレスラー(候補作)も見てファンになったり評価を下す。

 それにより生じる権威こそ、真の権威というものではないだろうか?

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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