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プロレスベルトと芥川賞の価値・権威 その5 もしあなたが『火花』を書いたら

 ここで、簡単な思考実験をしてみよう。

 思考実験と言うのも大仰で、誰でも一度は思うはずのことである。

 すなわち、あなたがピース又吉『火花』と一言一句変わらない小説を書いたとする。

 大江健三郎『万延元年のフットボール』でもよい。

 むろんピース又吉も大江健三郎も存在せず、存在していたとしてもそんな小説は書いていないとする。

 そしてもちろん、どんな手段でも媒体でも「発表している」ことが前提である。


 はたしてあなたは、芥川賞が獲れただろうか。ノーベル文学賞をもらえただろうか。

 たぶんそんなことはないだろう、とあなたも他の誰でも思う。

 おそらくは、注目されることさえないのではないか。

 ドストエフスキーと全く同じ作品群を、たとえばブログに綿々と書き綴っていったところで、それが世界的歴史的名作と評されることがあるだろうか。


 これは、理系の「業績」「発明・発見」とは大きく違うところである。

 無名の一大学院生がリーマン予想を証明すれば、それはフィールズ賞を獲れるであろう。


(「ノーベル数学賞」というものはなく、フィールズ賞がそれに相当する。)

 遺伝の法則を発見したメンデル(オーストリア。1822-1884)は、田舎の同人誌じみた科学雑誌に――しかも自分が設立に関わった協会の雑誌に――研究成果を掲載していた。

 誰も読まないような雑誌ではあったが、それでも1900年にはそれが「再発見」され、遺伝学の祖との栄誉を受けている。


 私は、こういうことが文学の世界でも起こるとはあまり思えない。

 つまりどこかの田舎の文芸同人誌に歴史的大傑作・芥川賞相当の作品が掲載され、それが何年何十年も後に認められ百万部も売れるなんてことはないと思う。

 確かに、そういう可能性は絶無ではない。

 影響力のある誰かがその作品を見つけてきて絶賛し、メディアも大きく報じるならばそういうこともあるかもしれない。

 しかしそもそも、芥川賞を獲って当然の傑作だなどと、誰がどうやって判定するのか?

 それは、誰かが(有名人が、選考委員が)そう言うからではないか?

 
 理系の発見・研究成果であるならば、誰が見てもその業績は明らかである。

 たとえ大多数の人間には全然理解できない内容だったとしても、とにかくスゴイのだろうとは感じられる。

 しかし文系の、特に「小説」だの「平和への貢献」だとかいうのは、人によって全然感じ方が違う。

 何でこんなのが面白いのか、何でこんなのが評価されるのか、諸説紛々・てんでバラバラなのが当然だろう。

 
 そして文系には、どうしても偶然というものがつきまとう。

 相対性理論を構築したのがアインシュタインでない他の誰かだったとしても、その誰かや相対性理論自体が世に見過ごされていたということは考えにくい。

 だが、ピース又吉『火花』と同等またはそれ以上の作品が芥川賞を獲っておらず、知られてすらいないということは大いにあり得る。

 仮にあなたがそんな作品を読んだとして、「つまんねぇゴミ小説」と最後まで読まない可能性はありまくりである。

 「芥川賞を獲っていない/ピース又吉でない無名人が書いた『火花』」を読んで、あなたはそれが芥川賞を獲るべき小説だと「見抜ける」だろうか?

 たとえば知人が書いたとしたら、鼻で笑うのが関の山ではないだろうか?



 私は、ある小説が傑作だとか世界的歴史的名作だとされることには、大いに偶然が関与していると思う。

 逆に、ある小説が傑作扱いされないのも、ある作家が大作家扱いされないのも、ほとんどは偶然によると思う。

 プロレスのルールは曖昧だと言われるが、小説の評価基準はその比ではない。

 世界には、傑作とされ永遠に読み継がれていたかもしれない「ゴミ小説」が山のようにあるのだろう。

 そんな小説(ルポルタージュなども)が何千何万も書かれては忘れられてきたのだろう。

 しかしそんな中、いかなる偶然でか傑作とされる本が「選ばれる」。


 芥川賞をはじめとする文学賞を得ることは、一つの作品・一人の作家がそうなるのに最適の手段である。

 それによって人々は権威を感じ、自分自身では傑作だと思うはずもない小説を傑作だと思うからである。

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プロフィール

平 成敏

Author:平 成敏
1970年代生まれの男性。
認定ファシリティマネジャー、主に施設管理の仕事に従事。
プロレス、社会、歴史など、興味関心のある分野についてあまり脈絡にこだわらず書いていきます。(⇒プロレス以外の話題については、別ブログ【社会・ニュース・歴史編】をご覧ください。)

著作一覧(アマゾンkindle版)

ペペチール第三王朝の興亡:表紙 世界系統樹:表紙 尊敬なき社会(上):表紙 尊敬なき社会(下):表紙

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