プロレスリング・ソーシャリティ pro-wrestling sociality 【プロレス・格闘技編】
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吉江豊、50歳で急死-「巨漢レスラー」の短命は宿命なのか
鳥山明、TARAKO(ちびまる子ちゃん声優)に続き、プロレスファンにはショッキングな訃報が出てしまった。 あの「巨漢ピンクレスラー」吉江豊が、全日本の高崎大会(3月10日)の試合直後に容体急変して死去したのだ。享年50歳。 あまりにも若すぎるし、またこれは「試合中の事故で亡くなる」という「リング禍」のうちに入るのではないかとも感じる。(⇒ BBMスポーツ 2024年3月10日記事:【訃報】元新日本プロレス・吉江豊さんが
あの「巨漢ピンクレスラー」吉江豊が、全日本の高崎大会(3月10日)の試合直後に容体急変して死去したのだ。享年50歳。
あまりにも若すぎるし、またこれは「試合中の事故で亡くなる」という「リング禍」のうちに入るのではないかとも感じる。
(⇒ BBMスポーツ 2024年3月10日記事:【訃報】元新日本プロレス・吉江豊さんが急死。全日本プロレス・高崎大会後に【週刊プロレス】)
吉江豊にとって3月10日の試合は、4か月ぶりの実戦リングだったという。
しかし試合自体は別段普段と変わった様子もなく、いつものように巨体で動き回っていたという。
バックステージではコメントも(私は見ていないが、たぶん普通に)出したものの、控室に戻った後に容体が急変したらしい。
私は吉江豊に持病というものがあったかどうか知らないが、しかし誰でも思うことをやはり思う。
それはもちろん、「巨漢レスラー」というのは体にどうしても負担がかかり、よって短命なのが宿命ではないかということだ。
そしてまた他の人たちと同じように、「浜亮太」というレスラーの名もやっぱり浮かんでしまうのである。
(しかし、そう連想が行くのなら、大相撲の力士たち全員へも連想が及ばなければならないのだが……)
大相撲を除く他のスポーツ界ではいざ知らず、プロレス界では「巨漢であること」はやはりウリの一つである。
確かに昔ほど巨漢であることの評価が高いわけではないが、それが人の目をどうしても惹きつける、よってレスラーのアイデンティティになるというのは今も変わらない。
ただ、これにはネックもある――
正直なところ、巨漢タイプのレスラーが本当に歴史に残る名レスラーと評価されることはなく、そう評価されるのは決まって(こういう言い方が合っているかはわからないが)、標準体型タイプ又は「太っている」ではなく「ゴツい」タイプのレスラーなのだ。
むろんジャイアント馬場やアンドレ・ザ・ジャイアントほどになると話は別だが、それも巨漢であるのは横幅でなく縦の長さ(身長)である。
正直なところ、もしプロレス界が一丸となってレスラーの健康管理に万全を期そうとするなら――
まず「太った巨漢タイプのレスラー」を廃絶することから手を付けるべきなのかもしれない。
あれこそは、誰が見ても「体の負担はすごいだろう」「いつか限界が来るだろう、体調を崩すだろう」「長生きは難しいだろう」と直感するに決まっている姿だからである。
しかし、では、それができるかということになると話は別だ。
わが団体では、太った巨漢タイプのレスラーは採らない・育成しない・リングに上げない……
という方針をもし掲げれば、それは不人情であり非人道的・差別的だとプロレスファン(の少なくとも一部)に評価されてしまうだろう。
ただ、実のところ――
そんな方針を密かに決めている団体もプロレス界にはいくつかある、と私は思わないでもない。
もしそうだとすれば、今回の吉江豊の急死でそんな団体はますます増えてくるのではなかろうか。
改めて考えてみると、日本のプロレス界の初期や前期は、グレート・アントニオにヘイスタック・カルホーンなど「太った巨漢レスラー」の黄金期だった。
いや、かつては世界のプロレス界でそのようなレスラーが活躍していた時代があった。
しかし今となって見ると、その数は極めて減少しているように思える。
おそらく太った巨漢レスラーというのは、近いうち絶滅に瀕するタイプのレスラーなのだろう。
その中で吉江豊は、同タイプのレスラーの中で最後に近い光芒を放った存在だったように感じる。
何にせよ、非常に残念である。
謹んで、ご冥福をお祈りする。
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プロレス
2024-03-10T23:33:50+09:00
平 成敏
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ブル中野、日本人女子初WWE殿堂入り…は当然だろう
3月7日、WWEはブル中野(56歳)を2024年度WWEホール・オブ・フェーム(WEE殿堂)の一人に選出したことを発表した。 日本人プロレスラーとしてはアントニオ猪木、藤波辰爾、獣神サンダー・ライガー、グレート・ムタ(武藤敬司)に続く5人目、日本人女子レスラーとしては史上初となる。(⇒ 日刊スポーツ 2024年3月7日記事:ブル中野、WWE殿堂入り「泣いてしまいました」「やっと報われたな」4・6式典出席)(⇒ ABEMA格闘TIMES 2
日本人プロレスラーとしてはアントニオ猪木、藤波辰爾、獣神サンダー・ライガー、グレート・ムタ(武藤敬司)に続く5人目、日本人女子レスラーとしては史上初となる。
(⇒ 日刊スポーツ 2024年3月7日記事:ブル中野、WWE殿堂入り「泣いてしまいました」「やっと報われたな」4・6式典出席)
(⇒ ABEMA格闘TIMES 2024年3月7日記事:「すべての苦労が報われた。これでようやく終われるなって…」日本が世界のプロレス界に誇る“女帝”が流した涙 ブル中野、日本人女子初の“WWE殿堂入り”快挙)
今回のブル中野の選出に異を唱える人は、いないだろう。
それどころか「遅きに失した」と思っている人が大多数だろう。
もし日本人女子レスラーの中で誰か一人WWE殿堂入りを選ばなければならないとすれば。もちろんブル中野を措いて他にはない。
あるとすれば、あの大昔のJBエンジェルス(立野記代&山崎五紀)くらいである。
今回の選出に際し、WWEのトリプルHは「彼女は史上最高のプロレスラーの一人」と讃えたらしい。
これは私もそう思う。
特に女子プロレスにおいては、世界的に見てもブル中野は史上最高クラスの一人だったと思う。
まずあのメイクと垂直に逆立った長い髪は、まさに一度見たら(令和の子どもたちでも)忘れられない容姿である。
そしてあの女帝そのものの風格は、(あんまりこういう言い方はしたくないが)イマドキの女子プロレスラーには逆立ちしても出せないものがあると思う。
そのブル中野も(有名な話ではあるが)全日本女子プロレスでは名物的なイジメに遭い、悪役に転身「させられた」ときには当時の彼氏とも別れるなど、ハードなレスラー人生であった。
全日本女子プロレスにせよ他の団体にせよ、昔のプロレス団体は今でいうブラック企業――超絶ブラック企業――みたいなところが多かったようだ。
しかしもしかしたら、ブル中野のようなレスラーはそういうブラックな環境の中でこそ生まれたのかもしれない、とは誰しも少しは思うだろう。
もしブル中野が現代の女子プロレス団体に入っていたらどうなっていたか、というのは、答えなど決して出ないがなかなかの難題だろう。
さて、今回のブル中野WEE殿堂入りで一つだけ懸念があるのは、今後日本人女子レスラーが後に続くことはあるのか、という点である。
ブル中野がアメリカで活躍したのは、日本でトップをとった後の1990年代の話である。
それ以後、現在に至るまで、ブル中野ほどの活躍をアメリカで示した日本人女子レスラーはいないし、今後も出てくるとはちょっと想像しにくい。
なんか、もう、何十年にもわたって日本人女子レスラーはWEE殿堂入りしない――
もしかするとブル中野が史上唯一になるのかもしれない、とも感じるのだ。
それを除けば、今回のニュースにはおめでとうございますの一言に尽きる。
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プロレス
2024-03-07T21:08:22+09:00
平 成敏
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オカダ・カズチカAEWに移籍-まるで新日本のコピー団体のような
3月6日(日本時間7日)、米AEWは元新日本プロレスのオカダ・カズチカと契約したことを発表した。 同日、オカダはリングネームもニックネーム“レインメーカー”も入場曲もそのままにAEWのリングに登場し、ヤングバックス(マシュー・ジャクソンとニコラス・ジャクソンの兄弟)と結託してユニット「ジ・エリート」入りした。(⇒ 東スポweb 2024年3月7日記事:オカダ・カズチカの新天地は米国・AEW 電撃登場に現地ファンも熱狂
同日、オカダはリングネームもニックネーム“レインメーカー”も入場曲もそのままにAEWのリングに登場し、ヤングバックス(マシュー・ジャクソンとニコラス・ジャクソンの兄弟)と結託してユニット「ジ・エリート」入りした。
(⇒ 東スポweb 2024年3月7日記事:オカダ・カズチカの新天地は米国・AEW 電撃登場に現地ファンも熱狂 正式契約結ぶ)
かねてから新日本退団後のオカダの行き先はAEWが最有力であったのだが、まさにそのまんまの成り行きとなった。
そういうわけで、世界のプロレスファンにとっては最も衝撃度の少ない移籍となったと言わざるを得ない。
このニュースを聞いたプロレスファンで「まさかオカダがAEWに!」「ついにオカダがAEWに!」とビックリした人は、まさかいないだろう。
それはともかく、このAEWという団体について――
ヤングバックスといいケニー・オメガといい今回のオカダ・カズチカといい、まるで「ちょっと前の新日本のリング」じゃないか、と思わない人がいるだろうか。
確かに新日本とAEWは提携関係にあるのだが、これは提携と言うより連動、連動というよりコピーとさえも感じられる。
私は全く利害関係のない第三者なのだが、ここまで似ていていいんだろうか――
どうせなら合併して一つの会社になった方がいいんじゃないか、と思うくらいのレベルである。
そしてオカダについても、こんなにも似たリングに行くくらいなら、全然別の団体に行った方が良かったんじゃないかと思っている人も少なくないだろう。
(もっとも、オカダの求めるギャラ水準を払えるのは世界にAEWくらいしかないのだろうが……)
しかしこれ、見方を変えれば――
新日本が「元・新日本選手」を海外提携団体に転出させ、そこで新日本の市場開拓をやってもらう形になっているとも取れる。
新日本は「元WWE戦士」を導入・活用し、その新日本が「元・新日本選手」を海外団体に送り出すという構図は、確かに新日本が世界第二のプロレス団体でAEWが世界第三位のプロレス団体だという位置づけに適合している。
とはいえ、これは現時点の構図であって――
次には「元AEWから新日本に移籍する」流れが生まれてくる、と考えるべきではなかろうか。
提携団体・交流団体どうしの関係というのは、そもそもがそんなものであるはずだ。
それでこそ、世界最大のWWEに連合して挑む形になれるだろう。
はたして、それで新日本にやってくる外国人選手は、誰になるのだろうか……
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プロレス
2024-03-07T20:09:21+09:00
平 成敏
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ジュリア、スターダム退団確定-ロッシー新団体か海外か
2月27日、東京スポーツは“お騒がせ女”ジュリア(30歳)がスターダムを3月いっぱいで退団することが明らかになった、と報じた。(⇒ 東スポweb 2024年2月27日記事:【スターダム】ジュリア 3月限りで電撃退団へ ロッシー新団体、WWE進出の可能性も) 例のスターダムの乱――団体創設者のロッシー小川が分離独立を図ったとして団体から解任された――が起こって以後、女子プロレス界ウォッチャーらの目は(当然のことながら)ロッ
(⇒ 東スポweb 2024年2月27日記事:【スターダム】ジュリア 3月限りで電撃退団へ ロッシー新団体、WWE進出の可能性も)
例のスターダムの乱――団体創設者のロッシー小川が分離独立を図ったとして団体から解任された――が起こって以後、女子プロレス界ウォッチャーらの目は(当然のことながら)ロッシー小川が旗揚げするに決まっている「新団体」に注がれている。
いや、それがいつどんな名前で創設されるのかはもちろんのこととして、それ以上に注目なのが「誰がスターダムを抜けてその新団体に移籍するか」という点なのだ。
そしておそらく、その表明第1号がジュリアということになるのだろう。
確かに上記引用記事でも触れられているが、ジュリアが海外マットとりわけWWEに行く可能性もないではない。
しかし、こう言ったからとてジュリアを腐しているわけではないが、海外に行ってもそこまでの活躍はできないのではないかと思う。
というのも海外マット(WWE)には、ジュリアによく似た女子レスラーが非常にたくさんいそうだからである。
一例だけ挙げるとリア・リプリーだが、たぶんジュリアもあんな凄いメイクの「似たようなレスラー」になるのではないかと思う。
むろんジュリアがイタリア人とのハーフで外国語も得意そうなのはアドバンテージにはなるだろうが、しかしよほど斬新なキャラ設定でないと、「似た者女子レスラー」の中に埋もれてしまう危険性はあるのではなかろうか。
なるほど私には、ロッシー新団体の前途はそれほど洋々とはしていないとは思える。
なにせ日本トップの企業プロレス、ブシロードグループのスターダムから抜けるのである。
どんなスポンサー会社が付くのかにもよるのだが、新団体の経営面は相当厳しくなるのではあるまいか。
しかし穿った見方をすると、ロッシー小川は「ジュリアを確保した(できた)」からこそ、新団体旗揚げを決断したのではないかとも思える。
さすがにこれくらいの選手を一人は確保しておかないと、なかなか分離独立してやっていけると決意することはできないような気がするのだ。
そうだとするとジュリアというレスラーも、「アイスリボン非円満離脱」のときと比べて恐ろしいほど伸し上がってきたものである。
その商品価値は爆上がりしたものである。
そして冒頭にあれだけ書いておいてなんだが――
ジュリアの30歳という年齢は、海外マットにチャレンジするのにまさに打ってつけのシーズンと言える。
これまでWWEに行ったどの日本人レスラーよりも、年齢という点では最もベストシーズンに当たっていると思う。
それらを折衷すると、「ロッシー新団体に所属しながら海外マットにも参戦する」というパターン――ちょっとKONOSUKE TAKESHITAにも似ている――が、非常にあり得る可能性ということになるだろうか……
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プロレス
2024-02-27T21:05:23+09:00
平 成敏
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ザック・セイバーJr.「魂の演説」-イデオロギー闘争再び
2月11日、新日本プロレスのエディオンアリーナ大阪大会『THE NEW BEGINNING in OSAKA』では、新日本を離れるオカダ・カズチカと新日本の社長となった棚橋弘至が、最後の一騎打ちを行った。 その結果は、オカダの勝利。 あのレインメーカー・ショックを知る者は誰でも、深い感慨を覚えただろう。 だが私的には、その感慨をもずっと凌駕する出来事がこの大会では起きていた。 セミファイナルの、ザック・セイバーJr.とブライア
その結果は、オカダの勝利。
あのレインメーカー・ショックを知る者は誰でも、深い感慨を覚えただろう。
だが私的には、その感慨をもずっと凌駕する出来事がこの大会では起きていた。
セミファイナルの、ザック・セイバーJr.とブライアン・ダニエルソンのスペシャルシングルマッチ……
それに勝利したザックが、バックステージで「魂の演説」とも言えるコメントを発したのである。
それはまさに演説であって全てを引用したいところだが、さすがにそれはやり過ぎなのでリンク先を参照されたい。
(⇒ プロレスTODAY 2024年2月12日記事:【新日本】ザックがブライアンを撃破し宣言「 2024年オレはIWGPヘビー級王座を獲って、プロレス界を一変させてやる」)
●オレは日本のプロレスに夢中だった。プロレスに対する尊敬、敬意、技術、そして名誉をもたらすこと(を目指した)。
●プロレスはスポーツだが、エンターテインメントの要素も含まれていないといけない。しかしそれはあくまでも目的であり、実際は格闘スポーツだ。
●ブライアン・ダニエルソンは世界最大のプロレス団体(WWE)に向かった。
オレたち(自分とブライアン)のプロレスをプロレスではないと拒否する団体だ。
●しかしブライアンはそんな団体でも成功した。彼がWWEで億万長者になっていた頃、オレはどのメジャー団体からのオファーも断り続けた。
●オレはこれからも人生の全てをこのスポーツに捧げるつもりだ。感謝も祝福も期待していない。そしてある日忽然と姿を消すだろう。
その日まで、オレは毎日新日本プロレスにいるだろう。日々、プロレスの概念を覆すために働き続けるだろう。
●1人また1人と億万長者が増えていくたびに、オレはここ(新日本)にいる決意が強くなる。
それは愚かなことだと思うからかもしれないし、資本主義を信じないからかもしれない。
そしていつの日か、オレはここを平等な社会主義な組合に変えてやる。
オレはお金に興味がない。プロレスに興味があるんだ。
ここ数年――いや、ここ数十年か――、ここまでプロレスを「思想」として語ったプロレスラーがいただろうか。
もしかしたらこれは、UWFの前田日明以来のことかもしれない。
しかし前田日明より、さらに思想は鮮明である。
特に最後の、
「1人また1人と億万長者が増えていくたびに、オレはここ(新日本)にいる決意が強くなる」
「それは資本主義を信じないからかもしれない。いつの日かオレはここ(新日本)を、平等な社会主義な組合に変えてやる」
「オレはお金に興味がない。プロレスに興味があるんだ」
は強烈である。
いったいぜんたい、自分は資本主義を信じない上に、自分がプロレス人生を捧げると決めた団体を、いつの日か平等で社会主義的な組合に造り替えてやる――
なんて宣言するレスラーって、今までいただろうか。
いやレスラーどころか、日本の言論界に「資本主義を信じないで社会主義を目指す」なんて言っている人・堂々キッパリと言える人が、はたして何人いるだろうか。
スポーツ界において――スポーツと認めない人はさておくとして――プロレス界が特殊なところと言えば、「エンターテインメントの要素が含まれている」こともあるが、何よりも「イデオロギー闘争」がある(とされている)点である。
大相撲にも野球にもサッカーにも、イデオロギー対決というものはない。
テニスイデオロギーはなく、バスケットボールイデオロギーもない。
そしてこう言っては何だが、「バレーボール哲学」というものもないのではないか。
しかしそのプロレス界においても近年、イデオロギー闘争というのはすっかりご無沙汰の感がある。
「自分の信じるプロレス」みたいな言い方はありはするが、確かにイデオロギー色というのはプロレス界からほとんど消えかかっていたと言っていいだろう。
そこへこのザックの「魂の演説」である。
これは今のプロレス界へ、ひいては大きく見れば日本社会へ、まるで爆弾を投げ込んだようなものだ。
なにしろこれほど断固として、資本主義を否定して(信じないで)社会主義を目指す、というスタンスを明らかにしているのだから。
さらにザックは今回のブライアン戦直前、東スポのインタビューにこうも答えている。
「考えてみてほしい。なぜファンは、米国のプロレスだけを見ようとしないのか?
私が10代の頃に夢中になったのは、日本のプロレスがプロレスに敬意と品格を持って接していたからであり、西洋のプロレスに抱いていたような恥ずかしさではなく、プロレスファンであることを誇りに思えたからだ」。
ザックにとって、西洋のプロレス即ちWWE式プロレスは、それを見ることに恥ずかしさを覚えるものだったようだ。
これはかつても多くの外国人レスラーが思ってきたことのようで、彼らの大半が日本に来て感じるのは(感激するのは)、日本のプロレスファンがレスラーやプロレス自体を本当に敬意をもって見てくれるということだったらしい。
もちろん「エンタメWWE式プロレス」に批判的な人は日本のプロレスファンにも、そして日本人レスラーにも数多いはずだが――
しかしこうまでハッキリとエンタメプロレス化を否定し、なおかつ資本主義までも否定するレスラーというのは、今のところザックという外国人レスラーだけだろう。
まさしくこういうことを(少なくとも何人かは)言うべきだろう当の日本人レスラーでさえ、こんなことを言う人は誰もいない。
なんだか今回のバックステージ演説でザックは、一躍(かつてのUWF前田日明のように)現代プロレス思想界の中心人物となった気がする。
ここにまた一人、プロレス界の台風の目が生まれたわけである……
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プロレス
2024-02-12T21:52:09+09:00
平 成敏
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